国民的大論争 第4弾 科学で何でも分かる時代、人間は幸福になったのか 東尾理子、山折哲雄、マイケル・サンデルほか著名人が続々登場
出生前の「遺伝子検査」――私はこう考える
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■人間は残酷な生き物である |
■本能に従うとどうなる? |
■日本らしい命の捉え方とは |
■科学者にも責任はある |
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なかなか口にしづらい話題かもしれない。だが、議論は着実に広がっている。医師、作家、学者、身体障害者、そして母親。総勢9人が本誌特集を読み、本気で考えた、新たな技術との付き合い方――。 |
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人間は残酷な生き物である
「これまでの『週刊現代』の特集を読んでまず感じたのは、この出生前診断というテーマを取り上げること自体がとても大切だということです」
こう語るのは、俳優・石田純一氏の妻でプロゴルファーの東尾理子氏(37歳)だ。彼女は妊娠中の昨年6月に出生前診断を受け、その結果をブログで明かして物議を醸した。
「私が出生前診断を受けて、『お腹の子どもにダウン症の可能性がある』と明かしたときには、『そんなこと発表するべきじゃない』という声も沢山いただきました。
当時はこんなに重大な問題だとは知らず、ただ日常生活の報告という軽い気持ちでした。ですが結果として、これをきっかけに出生前診断や高齢出産が大きく取り上げられ始めたことには、意義があったのではないかと今は思います」
本誌が過去3回にわたって掲載してきた「出生前診断」特集。その中では、妊婦・母親の肉声、医師たちの考え方から、さらには海外各国の最新事情までをお伝えしてきた。各界の著名人や識者は、本誌報道を読んで何を考えたのか。
東尾氏は、自身が検査を受けた当時の心境をこう振り返る。
「出生前診断を受けた時期、私はつわりがひどく、毎日吐いていました。妊娠初期の辛い時期に出生前診断を受けるか受けないか、生むか中絶するかを選択するのは大変です。私自身、当時は何の知識もなかったのですが、やはり妊娠する前から出生前診断について知っておくことが大切ですね。
私は出生前診断を受けるまで、お腹に子どもがいるという感覚さえ薄かった。でも検査を受けて『この先には中絶という選択肢があるんだ』と理解した瞬間、ようやく初めて『この子を守ってあげなければ』という衝動を感じたんです」
一般に、胎児の異常が見つかれば中絶が暗黙の前提となる出生前診断。だが、実際にその選択を前にして何を感じるかは、母親次第と言うほかない。その後、彼女は昨年11月に男の子を出産。男の子にダウン症の症状はなかった。
今月から、国内の一部医療施設では、妊婦の血液検査だけでダウン症など胎児の染色体異常が判別できる、新型出生前検査の実施が始まっている。
「もし妊娠していた頃に新型検査を受けられたとしても、私は受けなかったと思います。ただ、子育ては一人ではできません。夫や親から受けて欲しいと言われれば、受けたかもしれませんね」(同前)
今後、新型出生前検査が普及すれば、胎児の異常を理由に中絶を選ぶ妊婦は増えるかもしれない。さらに、ゆくゆくはあらゆる先天異常が胎児の段階で分かるようになる可能性がある。以前なら生まれてきていた命が、中絶によって断たれる時代も間近に迫っている。
医療技術の進歩は、果たして人を幸せにするのか。いっそ何も知らないほうが幸せなのではないか――こう疑問を抱く読者も少なくないだろう。現役医師で作家の久坂部羊氏は「医療の役割は、もはや昔とは全く変わっている」と指摘する。
「医療は人々の『安心を保証する』ものから『想像力と判断力を試すもの』に変化しています。医療に頼れば安心という時代は、古き良き過去になってしまったのです。医療の進歩は、今までは人間の幸福にある程度直結していました。しかし、現在では倫理が追いつかないほど技術が高度になり、進歩も早すぎる。
出生前診断だけでなく、不妊治療、延命治療や臓器移植など、医師の側でさえ判断に困るケースも増えています。患者にも辛い現実や難しい判断に向き合う冷静さ、理性が求められる。厳しいようですが、それがひいては患者の幸せにつながるのだと思います。検査を受けるならば、異常があったときに、怯まずに事実を受け止めることを覚悟したうえで受けなければならないと私は考えています」
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