大好評シリーズ「日本一を決めよう」第3回 松下幸之助×本田宗一郎×柳井正×孫正義ほか 1945〜2013 過去68年
日本で一番金持ちはこの人だった
|
■世の中を変えた金持ち |
■出る杭は打たれるのか |
■落ちるところまで落ちた |
■カネは人間を変えるのか |
■金持ちになることは幸福なのか、不幸なのか |
■利用されて騙される |
■正しいお金の使い方 |
|
|
その道の有識者があらゆるものの「日本一」を決める人気企画。今回のテーマは「大金持ち」である。時代とともに移り変わる大富豪の系譜は、時代を映す鏡。彼らの姿からこの国の形が見えてくる。 |
 |
世の中を変えた金持ち
「松下幸之助や本田宗一郎といった人たちは、恵まれない環境で育ち、ハングリー精神をバネに億万長者になった。いずれも新しいビジネスのシステムをつくるとか、世界に冠たるブランドを創造しつつ、多くの人を雇用し、社会に貢献した人です」(神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー・長田貴仁氏)
大金持ちは、ただ単に金儲けがうまいだけの人間ではない。社会を変えるほどの仕事を創造し、大げさに言うなら、歴史に名を残すほどの業績を挙げてきたからこそ、結果として大金持ちになったのだ。
最近ではIT系企業が華々しく上場した際に、一気に巨額の上場益を手にしたものの、わずか数年で倒産という例も少なくない。
そこでシリーズ「日本一を決めよう」の第3回では、本誌がこれまで掲載してきた「日本の大金持ち」特集の蓄積をもとに、本物の大金持ちランキングを作成した。時代も手法も問わず、純粋にカネを稼いだ人物をリストアップ。そこに有識者の評価と実際の納税額、資産、さらには社会的影響力の大きさなども加味している。
まずは上の総所得額のランキングをごらんいただきたい。これは戦後すぐから現在までの「長者番付」を精査し、納税額や株式の配当収入などをもとに、本誌が独自に算出・ランキングしたものだ。年代によって異なる貨幣価値は、総務省統計局発表の「消費者物価指数」を掛け合わせ、'11年時点での貨幣価値に換算している。
ナンバー1に輝いたのが、任天堂創業家で現・相談役の山内溥ひろし氏だ。総所得額906億5900万円。山内氏は同社の株式を1416万5000株所有する。この株への配当金が昨年度だけでも、14億1650万円に上るのだ。'08年度には年間配当金は1440円だったため、この年、山内氏は約204億円を手にした計算になる。これらを累計することで、巨額の所得額となった。ノンフィクション作家の桐山秀樹氏が、その山内氏と面談したときの印象を語る。
「会社でお会いしたのですが、秘書が部屋に入ってきたと思ったら、ご本人でした。印象は普通のおじさん。私は最初、広報の人だと思ったくらいです。不要なものはいっさい省いているような出で立ちで、逆に圧倒されました。戦時中、京都で捕虜になっていたロシア人がトランプで遊んでいるのを見て、商品化したそうです。戦略に長けた人で、ゲームの企画もフリーの若いクリエイターから公募する。持ち込みOKで競争をさせて、いいものだけを取る。経営者として冷酷だと思った半面、この環境が優秀なクリエイターを育てたのだなとも感じました」
純粋に稼いだカネだけでランキングすると、投資で単年度に莫大な金額を稼いだタワー投資顧問の清原達郎氏のような人物がランクインする。
また、ユニマットグループ元代表の高橋洋二氏のように、消費者金融とコーヒー販売で財を成したものの、子会社の温泉施設(東京・渋谷)が死亡事故を起こし、表舞台から消えた者もいる。
健康食品販売やパチンコ業、サラ金業といった企業の経営者の名が挙がるのも特徴的だ。
この結果を踏まえつつ、識者16名の評価を数値化し、名実ともに「日本一の大金持ち」をランキングしたのが、下に掲載した表である。
多くの識者が1位に挙げたのは、やはりパナソニック創業者の松下幸之助だ。小宮コンサルタンツ代表の小宮一慶氏が絶賛する。
「総資産5000億円で遺産が2450億円と言われていますが、今の物価を考えれば1兆円以上の資産。間違いなく日本一の金持ちですが、松下さんがすごいのは資産だけではない。それ以上に社会に与えた影響の大きさが別格なんです。たとえば大量の著書を残しており、多くの起業家がそれを読んで感銘を受け、企業を起こして金持ちになった。京セラの稲盛和夫さんも、若い頃に松下さんの話を聞いたことが人生を変えたと書いています」
松下幸之助といえば、政治・経済のリーダー育成のために松下政経塾を開いたことでも知られる。この塾には松下の夢がこめられていたと語るのは、政治経済評論家の板垣英憲氏だ。
「電器産業を志したとき、松下幸之助には大きな目標があった。『日本を無税国家にする』というのがそれです。産業が発展して国が豊かになれば、国は法人税だけでやっていけると考えたのです。それを実現するために、80歳を過ぎてから政治家を目指しましたが、周囲の猛反対であきらめ、理想を実現するために政経塾をつくった。ただ、皮肉なことに、第1期生の野田佳彦元首相は、無税どころか消費税増税の道筋をつけてしまいましたが」
実業家では、本田技研創業者の本田宗一郎も高評価を集めた。ランキングの顔ぶれの中では「一番真面目だった」と高く評価するのは、評論家の佐高信氏だ。
「虚業の金持ちが多い中、本田さんは実業にこだわり通した。彼ほど仕事が好きだった人もいないが、退き方も潔かった。本田さんは金儲けに対する関心はなかったんです。会社の銀行の通帳も見たことがないという人で、まさにものづくりに対して夢を追い続けたドリーマーでした」
前出の桐山氏も同様の感想を語る。
「社長なのに、いつも地味な白い作業服を着て、機械油の匂いがするような人。『ものづくりの世界で、海外に負けないモノをつくりたい』と熱弁されていたのを覚えています」
ブリヂストン創業者の石橋正二郎は松下幸之助と1位の座を争った。東京商工リサーチ情報本部の関雅史氏は強運ぶりを称える。
「最初は地下足袋を作っていたのですが、このままでは先細りになるというのでタイヤ製造に転じた。ところがさっぱり売れず、返品が10万本。倒産寸前となったところで戦争が始まり、息を吹き返した」
石橋の娘の安子は鳩山家に嫁ぎ、鳩山政治ファミリーの“打ち出の小槌”になった。
「財界で成功した人が政治家と結びつき、日本の指導者層を形成したという意味でも、石橋さんは特筆に値します。ただ、そこから無能な政治家の印象が強い鳩山由紀夫という総理経験者を出してしまった。起伏のある一家という印象です」(同志社大学経済学部教授・橘木俊詔氏)
|
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
|
|  |
面白コラム満載!会員登録をすると「連載・コラム」はご覧いただけます |
|