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Top > 特集記事 > 社会 > 2013.12.2
60年前、生まれた病院で「取り違え」 実の親は裕福だった いまはトラック運転手 いまさら「真実」が分かっても…
貧しい他人の家庭で育った男性の人生を考える
■「生まれた年に戻してくれ」 ■カネがあったら幸せなのか
■学歴もカネ次第なのか ■そして希望は見えた
「一体、誰に似たんだか」。冗談混じりに言われたことのある人も多いだろう。だが本当に家族が赤の他人だったら――。60年間の人生を覆す「真実」。それを知ることは、はたして幸せと言えるのか。

「生まれた年に戻してくれ」
「今回の件で、私が感じたことは二つあります。ひとつは、われわれは科学技術信仰によってはたして幸せになったのか、という問題です。本来、人間の生というものは、分からないことがたくさんあるものです。分からないものを受けとめるのが人生、といってもいいかもしれない。

 今回、DNA鑑定という科学技術が、その男性には本当の家族が別にいることを明るみに出しました。しかし、それで何かが解決するのか。ひょっとしたら、何もなければ幸せだったご本人にとって、わざわざ『不幸な状況』を生み出しただけではないのでしょうか」

 宗教学者の山折哲雄氏は「その男性」の人生についてこう語った。

 その男性とは、60年前に別の新生児と取り違えられ、本来は赤の他人である「家族」と人生を送ってきた60歳男性(以下、Aさん)。このAさんと実弟3人が東京・墨田区の産院を訴えていた裁判で、原告側が勝訴する判決が下った。

〈(Aさんは)親の愛情を受けて育ったと考えられるが、そのことによって真実の両親との交流を永遠に断たれてしまった衝撃と喪失感を償いきれるものではない〉(判決文より)

 今回の判決について、前出の山折氏は、日本社会が「血縁主義」に偏りすぎではないかとも指摘する。山折氏の言葉を続けよう。

「血のつながりこそが絶対だ、という考えが日本の社会にはいまだにあります。一方で日本には昔から『生みの親より育ての親』や『親がなくとも子は育つ』といった良い言葉がある。こうした先人の知恵を無視するかのように、近代になって『血縁主義』が強化されてきたのだと思います。

 それは科学とは無関係ではありません。たとえば、昨今の行きすぎた不妊治療の問題は、科学の力によって『血縁主義』が頭をもたげた一例です。血縁にこだわるよりも、『生みの親より育ての親』という考え方のほうが人間としてよっぽど上等だと私は思います」

 もちろん、新生児の取り違えなどあってはならない。60年後にその事実を知ったAさんの精神的ショックは周囲には計り知れないものがある。しかも育ての親、実の親とも、すでに鬼籍に入っているのだ。

 本誌はAさんら原告の代理人弁護士を務める大島良子氏に話を聞いた。大島弁護士によると、Aさんは涙ながらに、よくこのような言葉を口にするという。

「自分の生まれた昭和28年に戻してもらいたい」

「弟たちに残り20年間、一緒に交流して生きていこうと言われたときは、すごくうれしかった」

 Aさんは2歳のときに育ての父親をなくし、貧しい暮らしを余儀なくされた。電化製品も家にはラジオ一つしかなく、6畳一間で生活保護を受けながら、母子4人が肩を寄せあって暮らしてきたという。中卒で働きに出たAさんは、自ら学費を稼いで定時制の工業高校を卒業し、今はトラック運転手として生活する。

 一方、Aさんと取り違えられた男性(以下、Bさん)が育った家庭は、裕福だった。両親は教育熱心で経済的にもゆとりがあり、大学進学まで家庭教師が付けられるほどだったという。また、実弟3人も大学を出て、一部上場企業に就職した。

「今、実の弟とお酒を飲みながら話すことがあるそうです。そんなとき、弟たちが実の両親の写真を見せながら思い出話をすると、それを聞いて『どうしてそういう親に育ててもらえなかったのか』と涙が止まらなくなるとAさんは言っていました。悔しいし、取り違えた病院に憤りを感じるという表現をしたこともあります」(大島弁護士)














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