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春風奇譚
~ 業火 ~ Page:0003 
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 風が俺の長い髪を巻き上げる。正直な意見を言えば、短く切ってしまいたい。だが、切れば双子の『妹』に何を言われるか想像するだけで恐ろしい。
 運び屋という仕事をしている俺と『妹』の眞昼は依頼を終えた帰り道を急いでいた。が、ちょっとした不注意で大事な積み荷を落としてしまったんだ。それを探しに降りてきたって訳だ。
 降りてきたってのは船の事だ。俺たちの船は水には浮かばない。空に浮かぶんだ。もちろん、世界に一つだと思う。どうして浮かぶかはまだ秘密だ。
 しっかし、俺ももう歳かな……。たかがあの程度の酒で足元ふらつかせて荷物を落っことすなんて、まるっきり間抜けじゃねぇか。
 飯の後に眞昼と酒を酌み交わしていて、珍しく眞昼もいい調子で杯を空けていたから、俺もつい調子乗っちまった訳だが……。
 風に乗って地上に降りた俺は、闇雲に辺りを調べる。だって仕方ねぇだろう。この辺に落としたって事ぐらいしか分からねぇんだからさ。
 結構な時間荷物捜索していた俺は、丈の長い草むらに明るい色のものを見つけた。ああ、やっと見つけたよ、あの荷物。
 手を伸ばしてその荷物を拾おうとし、俺はそのまま硬直する。
 それは荷物じゃなく、人だった。しかも可愛い女の子だ。
 肩で切り揃えた髪と、明るい桃色の着物、そして見た目の印象とは不釣合いな悲痛な顔した寝顔。いや、失神顔か。
 血色の悪い白い顔は一瞬、死んでるのかと思った。だが、時々荒く吐き出す息で、辛うじて生きている事を証明していた。
 荷物を探して戻らないと眞昼の雷が落ちるだろうし、かといってこの女の子を見捨てられる程、俺は冷徹人間じゃない。だが、俺の力じゃ人一人と荷物を同時に運ぶ事は出来やしない。
 迷った挙句、俺は荷物を諦めて女の子を連れて帰ることにした。荷物より人命の方が大事だよな、うん。

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