 |
そんな記憶の糸をたどっていたら、日本と北朝鮮には国交がなかったという証拠をみずから思い出してしまったのだった。そうそう、金正日の息子がディズニーランドに行こうとして捕まってたんじゃなかったっけ? あのときわたしは心配したんだ。マイケル・ジャクソンなんか一日ディズニーランドを貸切にして遊んだぐらいだから、せめてビックサンダー・マウンテンぐらい黙って乗らせてから帰してやれよと。あの日が、記憶の底からよみがえってきた。
そうだ、国交がないから密入国して、ビックサンダー・マウンテンに乗り損なったんだ、金正日の息子。まあ、彼が正々堂々とディズニーランドで遊ぶためには国交の正常化とやらが必要なのかもしれない。けど、拉致なんかやっちゃうようなお国と友達になっても、あんまりいいことなさそうな気がするな。ほら、電車のなかとかでさ、ひとりでわめいている風変わりな人、いるじゃないですか。ああいう人とは目をあわさず極力視界に入ってないようなフリをしとくのが大人の知恵ってもんじゃないのかな。
それを編集長に言ってみたところ、また知識をひけらかされのである。
「なにから説明すればわかるのかなあ。ええと、北朝鮮ってのは社会主義国家なわけだが、ぶっちゃけ、金正日王朝といっても過言じゃないんだな。知ってるか? キムイルソン、金に日に成るって書く人な。金に正しいに日って書く人はキムジョンイル。で、キムジョンイル、こいつが今の独裁者」
確認されてムッとしたね。たしかにわたしは論点で膨大なデータ入力ミスをやりましたよ。だからって金日成と金正日を間違えると思うな。ちなみに金正日がシークレットブーツを履いてる疑いがあるのも知ってるぞ。
「そんじゃ北朝鮮の国民がどれくらいいるかは知ってるのかよ」
嫌なとこをついてくる人である。性格悪いんじゃないか。えーと、日本が1億2千万人ぐらいだから、その半分ぐらいっスかねえ?
「違う。北朝鮮の国民は、約2千万人!」
ああ、そういやしょっちゅう飢饉に陥ってたのを思い出したわ。そのたびに米あげたりして面倒だったよね。米がないから人増えない。北朝鮮の国土がどうなってるのかいっぺん見てみたいけど、かかわりあいになると米ねだられそうだし、やっぱ正常化はやめときましょうってことで駄目ですかね、編集長。
「たしかに、あんまり人はいない。でもヤバい。すごくヤバい。どうしてかというと、軍事国家だから。全員徴兵制。先軍国家。軍人優先」
あー、そういや兵隊さんがやたらと規則正しく行進してた。気持ち悪いぐらいに。まあ、人様の国のことだからさ、やらしておきましょうよ、行進。行進するより芋作れって感じの国のように見受けるけど、好きなだけ行進してりゃいいじゃないですか。すると渡辺編集長が、頭を抱えて言うんである。
「どういったらわかるんだ。つまり、ノドンが飛んできたらどうすんだよ!」
ここではじめてわたしは事の重大さに気づいた。ノドン! なんかずいぶん以前に一度飛んできて太平洋に落ちてしばらく経ったからすっかり忘れてた、そんなミサイルがあったのを。ヤバいよ、日本。
先生っ、もとい編集長、ノドンが飛んできたら、どれくらいの人が死にますか。それと、ノドンって核を積んでるんですか?
「んー、いまの段階では微妙だな。北朝鮮は核を持ってる。持っているというふうにアメリカは言ってる。ノドンミサイルは核がつめるんだが、核弾頭を小型化しないとならないので、まだつめないけど、ミサイルそのものはけっこうある。いまの段階でも飛んできたらけっこう死ぬ。かなり死ぬ」
マジですかっ。わたし、核シェルターに引きこもりたいです、編集長!
「だからな、国交がないと、マツタケの輸入はできても、お互いの国に大使館はないわけ。するとノドンについても国レベルの交渉ができないわけ。それで日朝国交正常化が必要なのな。いままではな、朝鮮総連であるとか、北京にある北朝鮮の大使館が窓口になって、日本の要求とかを裏口的に交渉をしていたわけだが、直接的な対話のためには国交ってもんが必要なんだよ」
ひええ、承知しました。わたし、ひとつ賢くなりました。本当です。学びました。というわけで、今回の授業のまとめ。国交がなくても、マツタケの輸入はできる。でも国交がないと、ノドンについて正面切って話し合えない。
日本の偉い人、ノドンが飛んでくるまえに、日朝の国交を正常化させてください。秘策は東京ディズニーランドですよ。一日貸切で遊ばせるんですよ。ついでに花火も百日分ぐらい上げろ! 仕掛け花火で夜空に描け、金正日万歳!
ウェルカム、北朝鮮の皆様。エレクトリカルパレードでお会いしましょう。
|
|

|