2004.09.16
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
コンビニ敬語とDQNの発明
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 とはいえ、コンビニ敬語とジャンルを作られるほど、この言葉の乱れに憤っている人たちがいるわけで、一応考えてみようかとわたしなりに知恵を絞ったあげく、某有名日本料理店でホール長をやっている女友達に電話してみた。コンビニと日本料理店の違いはあれど、接客は接客である。
「もしもし山崎です。あのさー、今度さ、コンビニ敬語ってのがテーマで原稿を書くことになったんだけど」
 すると相手はさすがはプロ、反応が速かった。
「ああ、リク○ートがコンビニ接客マニュアルとして出して、それが広がっちゃったヤツね。『お弁当のほう、温めますか?』とか『〜になります』とか」
「おおっ、さすがよく知ってる。犯人はリク○ートだったの。マジ?」
「この業界ではよく聞く話やね」
「一応、自然発生的に出来てきた言葉じゃないかって言われてるみたいだけど。コンビニ接客用語」
「わたしもそのへんは裏を取ったわけじゃないから知らない。ただ、そうは言われている。もちろん、故意に使わないように努力してるよ、わたしはね」
「じゃあさあ、料理を運んでいったとき、なんといって料理をその場に置けばいいの? 前に言ってたよね、『お待たせいたしました』は、高級店ではお待たせしないことが前提なので使わないって。無言でその場に料理を置くの?」
「違うよ。そういうときは『懐石風松花堂弁当でございます』とかね。ございます、が基本」
「なるほど! それが高級料理店のマニュアルなんだ」
 わたしがおもわず納得して驚いたら、逆にムッとされてしまった。
「それ、接客のマニュアルってレベルじゃないよ。せいぜい外国人に接客を憶えさせるときにそれを教えておくとレベルがアップするとか、そんな程度」
 かくして本来、料理を運ぶときにふさわしい言葉は、“ございます”だと知った。しかし、知ったとたんにこりゃ困ったと思った。
 彼女が運んでいるのは懐石風松花堂弁当だからいい。一方、これがラーメンだったらどうだ?
「ラーメンでございます」
と言われたら、ラーメンのくせに仰々しいっていうか、たかがラーメンにそんなに格式を求めていないっていうか、気楽にラーメンがすすれなくて嫌だ。
 だからといって、
「ラーメンです」
では乱暴すぎる。その中間が欲しい。なにかいい言葉はないのか?
 悩んだ末に思い浮かんだのは、
「こちらラーメンになります」
だった。それだ、それで行こう! と思ったとたんハッとした。
 いかん、話が振り出しに戻っている。
 しかし、である。
 この微妙に敬語だかなんだかわからない“コンビニ敬語”が、リク○ートの間違いであれ広まってしまったのは、コンビニのようにドライな接客を必要とするための敬語に不足していたせいじゃないのかと考える。
 わたしが石原都知事以前、ネットで『民度が低い』と表現しながら、どこか“ドキュソ”に一歩及ばない仰々しさを感じていたのと同様、本格的な接客とそうでないところの中間の言葉がみつからなくて、みんな困っていたところに、『こちらラーメンになります』だの『お弁当のほうあたためますか』が、間違いであれ提案された。だからドキュソという言葉が発明されたとたんにネットで大人気になったのと同様、みんながいっせいに飛びついたのではないかと。
 編集長、コンビニ敬語は、求める人がいる以上、使い続けられると思います。これは敬語として間違っているのではなく、新しく発明された敬語なんだと思います。ていうかぁ、『ラーメンでございます』のラーメンは食いたくないので、『こちらラーメンになります』でわたしはいいです。『お弁当のほう、あたためますか』も気になりません。所詮はどれもジャンクフード、敬語もインチキで十分です。なんて思うんですが、いかがでしょうか。
 てなことを主張してみたところ、編集長だけでなく、編集部の若い世代からも反発を食らってしまった。
「コンビニ敬語、どう考えたって嫌でしょう? 言葉を扱う仕事をしていながら、どうして気にならないんですか」
 すいません、かつて請求書を書くとき「原稿料として」ではなくて「原稿量として」と書いたのを編集長に発見されて、
「おまえがどんな気持ちで原稿を書いているのか、よーくわかった」
といわれたのはわたしです。コンビニ敬語、全然オッケー。
 来週、このコーナーが無くなっていないのを心から祈って。ではでは。

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