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このくらいの季節になると思い出す光景がある。
「中間テストが終わったら遊びに行こう」
と言って、みんなで自転車で集まってむかった先は「熊出没注意」の立て札が立った山であった。遊びの目的はもちろん「栗拾い」である。熊に注意を払いつつ、山に分け入り、栗の木の下で必死にイガと戦う。それがわたしの中学生時代の「遊び」であった。
熊は恐ろしい。熊は怖いぞ。熊注意。
近所のジイ様は同じく秋に山に分け入り、キノコ狩りをして帰る途中、道端に大きな男の人が立っていたので、
「おばんでございます」
と挨拶した。するとそれは大きな熊で、ザックリ叩かれ大怪我をした。視力が落ちたら山に入るのはやめましょう。熊ネタについて語り始めるときりがないのでやめておくが、こんな育ち方をしたもので、わたしは都会育ちの子と決定的に違う感覚を育ててしまった。ある秋の日、成長したわたしは東京の新木場公園を自転車で走っていた。初めて走る公園には、なぜか男の人がウロウロしていて、わたしと目が合うとサッと逃げていった。
わたしにはピンときた。
(この公園には、きっとキノコが生えてる!)
山でキノコ狩りの人と出会うと、さっと逃げていく。なぜか。キノコの生えるポイントを知られないためだ。わたしは興奮して、江東区育ちの男の子に電話した。
「新木場公園知ってる? あの公園さあ、絶対キノコが生えてるよ。キノコに詳しい人だれか知らないかな。キノコ狩りに行こうよ」
すると彼の返事はこうだった。
「うーん、あの公園ではね、別の意味でキノコ狩りをしているんじゃないかと……」
意味不明な返事をされて電話が切られた。新木場公園がホ×の方々の発展場だったと知ったのは、それから数年経ってからだった。しかも中学生によるホ×狩りの殺人事件まで起きたという。ああ、都会はなんて怖いところなんだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。わたしがなにを言いたいのかといえば、郵政事業民営化には基本的に反対ですってことだ。シェルパ斎藤という、わたしの好きなエッセイストがいるのだけど、彼の書いているもので一点だけカチンときたというか「当たり前のことをさも自慢げに書くな!」と思ったのに「離島などに行くときには、郵便貯金のカードを作っておくとよい。田舎では郵便局しか金融機関がないことが多々ある」ってなアドバイスである。当たり前じゃ! だから都会モンは嫌なんだ。どこの金融機関が熊の出るような山間部で貯金業務をやってくれるというのだ。そんな物好きはいなねえんだよ!
わたしは小泉首相という人をよく知らない。どうして人気があるのかもよくわからない。だって敵は、郵政事業を民営化しようとしているではないか。
田舎者の敵め! おらあ見てくれなんかに騙されねーぞ。
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