2004.09.30
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
郵政民営化と熊注意 その2
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 以前にも話したと思うが、巨大匿名掲示板、2ちゃんねるでは独身男を「毒男」と呼ぶ。もてない男は「喪男」、既婚女性は「鬼女」である。
 この鬼女板に、以前「小泉首相が馬鹿なのは毒男だから」というスレッドが立っていたのだが、わたしは小泉首相が毒男だから馬鹿なのではなくて、小泉首相はヘンタ×だから毒男なのだと主張したい。頭のよしあしについては、わからんとしか言いようがない。
 ちなみにこの噂、ネタ元はSMバーだ。
 正式にはビザール・バーというらしいが、SM愛好者たちが集い、M男を縛ったり吊るしたり叩いたりして、みんなでそれを鑑賞しながら酒を飲むという場所である。そもそもどうしてそんな場所に行ったかといえば、わたしの友人に相場師兼女王様という人がいるのだが、彼女がわたしを知らざれる世界へと導いてくれたのだ。店に入ったときは驚いたもんだ。カウンターで素っ裸のおっちゃんが酒を飲んでいたり、かと思えば赤ちゃんのような格好をしたおっちゃんがおしゃぶりを咥えて「ばぶー」とか言って満足げにしてたりした。ここに初めて入ったときも「都会はなんて怖い場所なんだ」と思ったものである。
 それはまあいいんだが、問題はその後である。
 酔いが醒めたら、
「なんであんなことをしてしまったんだ!」
と、もんどりをうって後悔しまくった。なぜならわたしは酔っ払って、滅茶苦茶ハイになり、女王様が、
「吊るしてあげようか?」
とご下問されたときに、
「ははー、お願いいたします」
と答えてしまったのである。
 かくしてわたしは縛られ吊るされ鞭でぶっ叩かれ、ついでに首絞めプレイもやられて、苦しくて首吊り自殺をした人のように舌を伸ばしていたらディープキスされた。このレズビアンプレイに観客は沸きに沸き、くだんの素っ裸で座っていたおっちゃん(のちに特許庁のキャリアだったと判明した)が、マッカランの12年ものを1本まるごと、わたしたちにプレゼントしてくれた。そのときに店の人たちから聞いたのだ。
「小泉首相もねえ、首絞めプ×イが好きなんだって!」

 てな話を渡辺編集長に話したところ、
「なんでそういう都市伝説を疑いもなく信じるんだ、このアホが! それよりちゃんと時事問題について勉強しろ。新聞はとったか?」
「はい、あいかわらずとってません」
「胸を張っていうなー!」
 扇子で頭を叩かれた。イタタ。サドっ気でもあんのかな、編集長。
「とにかくだ。郵政事業が民業を圧迫すると、小泉首相は言い続けていた。しかしそれは建前で、もっと大きな目的があるんだよ。これはな、ひとつは特殊法人だ。OBの天下り先として、事業団とか公社とかの、訳のわからん特殊法人があるわけだ。郵貯や簡保にお金が貯まると、大部分を預託金という名前で財務省が吸い上げ、その資金を特殊法人やなんかにつぎこんできた。3年前にいったんこれをやめたんだが、今度は財投債という名前で一部復活してる。公団も特殊法人もこれで息をついたわけだ」
 ここで思わずヘレン・ケラーのように、「ウォーター!」と絶叫したくなる。わかった、どのみち私たちの貯金や簡保のお金を、国のなかで回してしまっているんですね!
「そういうことだ。彼らは『運用』といってるがな。財投債を買ったお金はまず特殊法人に行き、訳のわからない道路を作ったり、プールを作ったりする。シーガイアもそう。これを入り口出口論という。出口をなかなかふさげないから、入り口を変えちゃおうということな。民営化というのは、特殊法人にお金が流れなくする。それが大事な部分なんだ。郵便貯金の資金が、あるいは簡保の資金が、国債の運用や、特殊法人を生かすための、お金に流れなくなるんだ」
 はじめて小泉首相をちょっと見直す。おお、なんて大きな挑戦をしようとしているのだ、小泉首相よ。ただの田舎者虐めの好きなサドっ気のあるヘン×イだと思っていたよ。ごめんよ。わたしは時事問題には詳しくないが、ちまたには“族議員”とかいう、いろんな省庁に肩をもつ議員がいるっていう話じゃないですか。そのへん、大丈夫なんでしょうか。


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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。別冊文藝春秋に連載の小説『ためらいもイエス』が今年4月に文藝春秋から刊行された。小説はほかに『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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