2004.10.07
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
郵政民営化と熊注意 その3
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「ボスー、山手線のなかがゆうパックで一色です!」
 三度目の講義を受けに、ボスこと渡辺編集長のもとにむかう途中、わたしはびっくりするような物を目撃してしまった。織田裕二をモデルに起用した、ゆうパックのつり革広告が、大々的に山手線に展開されていたからだ。
 本格的に今回の話を始めるまえに、すこしボスについて説明しておくが、渡辺編集長というのは在りし日の石原裕次郎、それも「太陽に吼えろ」で七曲署捜査一係のボスを演じたころの石原裕次郎に風貌が似ているのである。風貌だけではなくて、身振りや態度もどこか似ている。部下たちに「やってこい!」と命じて、自分は全然動かないとこも、ボスそっくりだ。
 それはさておき、論点の編集部に駆け込むと、ワイシャツにサスペンダー姿のボスが、渋い顔でうなずいた。
「そうだ、大変だぞ。民営化をまえに、駆け込み的に業務を肥大化しようと企んでいる。しかもコンビニとも業務提携しようとしているんだから、ヤマトなんかは大変だぞ」
「えー、コ、コンビニと提携?」
「そうだ、ローソンがすでに提携を決めている」
「まま、マジですか? それじゃ思いっきり、焼け太りじゃないですか!」
「焼け太りというのは正しくないだろ。駆け込み太りだな。焼け太りというのは家が焼けてみんなから見舞金を貰う、保険が入る、それで焼け太りだが、こちらはなんにも焼けてないから駆け込み太りというのが正しい」
 コンビニ敬語のときも思ったけど、言葉の使い方にいちいちうるさい人だ。ふいんき、違った、雰囲気で理解してくださいよ。焼け太りも駆け込み太りも似たようなもんでしょ。
「違う、全然違う!」
 わかりましたよ、じゃあそれでいいです、駆け込み太りですね。はいはい。
 ところでお金にあまり細かくない人は気づいていないかと思うが、じつはゆうパックの料金って、織田裕二の広告が出るまえから安かったのである。
 個人的な話になるが、わたしの父という人はちょっと風来坊的な性格の持ち主で、去年、突如として単身、沖縄に移住してしまった。
 それよりだいぶ以前の、中国経済の勃興期には、
「俺は上海に渡って林檎売りになる!」
と訳のわからないこと言って家族を疲弊させたので、沖縄行きは家族の妥協点としてはまあいいかって感じで事はとんとんと運び、父は晴れて沖縄を生活拠点とした。
 しかし問題はすぐに起こった。食べ物と酒である。
 わたしは移住が本格化するまえに一度お試しで沖縄に父を連れて行き、うちなんちゅーの手料理、沖縄の地元民の人たちが作る料理が口にあうかと尋ねたのだ。やまとんちゅー、本土人の父の口に合うのか、大丈夫なのか。しかし父はうまいといって、「俺はうちなんちゅーになってみせる」と意気込んでいた。しかしすぐに泣きが入った。どこに行っても泡盛と豚肉とゴーヤばっかりで耐えられないと。
 そこで酒だけもと、こちらから物資を輸送するようになったのだが、宅配便の送料がかなりの負担なんである。そんなときに母が、ゆうパックの料金を目ざとくみつけてきたのだ。たとえば発送地が東京で、重量が25Kgだったとすると、取り扱い店舗に持ち込んだとしても、宅配便なら3,790円かかる。これが、ゆうパックだとどうかといえば、なんと2,100円なのだ。ほとんど半額に近いのである。とはいえ、わたしはいちいち郵便局まで行くのが面倒なんで、近場のコンビニからヤマト便を利用していたが、これでコンビニでも取り扱いってことになって便利にさえなれば、簡単にヤマト便よりゆうパックを選んでしまうかもしれない。



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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。別冊文藝春秋に連載の小説『ためらいもイエス』が今年4月に文藝春秋から刊行された。小説はほかに『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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