2004.10.14
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
郵政民営化と熊注意 その4
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 郵政民営化と熊注意、第4回目です。勉強すればするほど問題が幅広くてディープなので、回数を重ねてしまって、そもそもなんで熊だったのかを自分でも忘れかけているんですが、いよいよ今回は「民営化すると最終的にどうなるのか」をボスから教えてもらったんで、前置きなしでいきます。
 ボスに言わせると、この民営化、「結局、よくわからない基本方針、どっちも立たずな基本方針が決まって」しまったのだそうだ。
 さて、まず民営化移行への第一ステップとして公社を廃止する年は2007年4月。この時、窓口、郵便、郵便貯金、郵便保険の4つの事業会社とその株を保有する純粋持ち株会社が設立される。ただし、システム構築が間に合えばの条件付きなので、もしかすると1〜2年遅れるかもわからない。
 問題はその後。持ち株会社は2017年までに郵貯と保険両社の株を全て市場に売却して完全な民有民営を実現するとしている。また持ち株会社についても、移行期間中に株の売却を開始するそうだ。ただし、国の持ち株会社の株保有はその後も3分の1以上を確保する。つまり、窓口と郵便については最後まで国の出資を残しておくということなのだ。
 さて4つの会社はどんな形になるのだろう。
 ひとつめが「窓口ネットワーク会社」。これは郵便、郵貯などの各事業会社から、窓口業務を受託する、すなわちこれまでの普通郵便局(ポストから葉書や手紙を集めて仕分けをし、配達する集配業務と、郵便貯金、簡易保険を扱う大きな郵便局)と似た仕事を請け負う会社が作られるそうだ。
 しかし民営化ということで、この「窓口ネットワーク会社」、さらにいろんな事業にも乗り出していいことになってる。前々回にもボスが話していた、コンサートのチケットや旅行会社、それから介護の仕事なんかを請け負ったり、雑貨を売ったりといった、コンビニっぽい仕事をしてもいいよってことになったそうだ。これまた「民業」を圧迫しそうな感じはするが、まあとにかく2007年がきたら、そういう会社ができちゃうらしい。
 ふたつめは「郵便事業会社」。何度も出てきた「信書」をはじめ従来の郵便物に加えて、クロネコヤマトと対決するような、物流を扱う会社ができる。
 みっつめが「郵貯会社」。新規加入分から政府保証が廃止されるのと、今後は預金保険機構に加入するのが義務付けられる。さらに、将来的にはひとりあたり1000万円までという預け入れの限度額も撤廃される可能性があるそうだ。
 よっつめが「簡保会社」。これまた新規加入分からは政府保証が廃止、保険契約者保護機構に加入が義務付けられ、これも1000万円までという補償額の上限が撤廃される可能性あり。
 ボスが講義を続ける。
「郵貯と簡保は、政府の後ろ盾がなくなったということで、完全化民営化したら、統廃合が進むだろう。政府の後ろ盾がなくなれば有利なことができなくなるから、利率がよかったり、告知義務がゆるかったりはしなくなる。できなくなるだろう。そうすると郵貯にも簡保にも、お金が流れなくなるだろうと。狙いはそういうふうにすれば郵便貯金と簡保に集中しなくなるということだった。
 しかし、問題は完全民営化までの10年という長さだな。郵政4事業を4つの会社に分割するにあたって、まずは持ち株会社というのを作り、そこに株を集め、その下に窓口ネットワーク会社などの4つの会社がぶら下がる。この持ち株会社、政府が株を持つわけで、最長でこれから13年もつ。この間に郵政側は政府の後ろ盾を利用してすっかり体制を整えようという魂胆。これじゃやっぱり民業を圧迫しつづけてしまう」
 うーん、ホントだ。なんだかよくわからない基本方針です。それが「民営化」っていえるのかなあ? 自分は馬鹿だからよくわかんないけど、ただの「風呂屋」だった暖簾(のれん)が「スーパー銭湯」に変わっただけのような気がする。で、泉質というのか水質というのか、そういうのは変わってないっていうか。
「そして、2017年の民営化への移行期のあいだに、窓口の金融商品などをあれこれと種類を増やして販売したり、融資などを拡大したり、預金の預け入れの1000万円までの限度額を引き上げたりする。これも駆け込み肥大化だ。
 おまけに2007年までは、公社ということで、優遇措置がある。移行期も政府が関与していれば、結局民営化じゃないじゃないかということだよね。とにかく郵政公社としては、2017年までに太っておこうと、そういうことだ。たとえば凄い話だと、不動産の賃貸業、郵便局で空いているところを貸しちゃおうなんてこともしてたりするんだな。郵便局の空きスペースを相場の30%から40%でローソンに貸したりとか。郵政公社にいわせれば、資産を有効活用しているのだってことになってるけど、ヤマト運輸にしてみれば冗談じゃないと。正当な競争ができていないと。結局、民間の宅配便を邪魔している」
 ぬおー、難しい。わたしは郵便局というのは田舎モンが唯一頼りにできる金融機関でもあるのだから、民営化のまえに足腰を強くして生き残って欲しいとは思う。
 けど、それが改革の結果、かえって「民業を圧迫」しちゃうんだったら、結果的には失敗した改革のように思えてならないんだけど、違うんだろうか。
「そう、足腰を鍛えておかないと民営化はできない。そうしないと、28万人いる郵便局員を、養うことはできないから、さまざまな手で収益率を上げようとしてる」
 うーん、やっぱり結果的には民業を圧迫してるような気がする。



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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。別冊文藝春秋に連載の小説『ためらいもイエス』が今年4月に文藝春秋から刊行された。小説はほかに『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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