2004.11.11
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
外国人労働力問題とマハルキタ(その2)
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 わたしは貧乏が長かったんで、風呂なしの物件で銭湯通ってましたけど、おりしもバブルが弾けた直後ぐらいだったんで、まだまだ外国人労働者はそのへんにゴロゴロしていて。連中の銭湯での行儀ときたら、マジで腹立ってきますよ。ゴルァ、立ったまま体を洗うんじゃねー! 石けんの泡がこっちに飛んでくるんだよっ。
「銭湯ぐらい我慢しなさいよ、君。だいたい日本というのは外国人社会じゃないんだな。国際化がなされてない。外国人に対するコミュニケーションがしっかりしてない。君なんかがいい例だよ」
 え、待って。銭湯で怒るのはわたしが閉鎖的な日本人だからなんですか? 悪者はわたしですか? わたしがコミュニケーションスキルがないからですか。
「まあそう言い切ってもいいだろう。だから我らが『日本の論点』編集部では、今後の日本社会のためにも中国語講座を週に1度開いて、国際親善を図ろうと頑張ってきた。君も誘ってやったのに、2週間でトンズラしたよな。全然駄目だ」
 くっ、昔の古傷を。じゃあ言いますけどね、わたしだって外国人とはコミュニケーションしてますよ! フィリピンパブとかで。
「なんだと、それならわたしだってコミュニケーションしてる! 中国人パブとかで。あ、いまのは冗談だから。ナシナシ。とにかく、外国人は受け入れなくちゃなんないの! わかった?」
 とても冗談だとは思えないけど、まあいいや。で、なんでしょうか。続きがあるんですよね。
「そう。これは石原都知事の意見だけど、中国から入ってくる連中は、たとえば留学生としてやってきて日本語学校に入る。そしてどこへ行くかというと、学校はすぐに辞めて働く。不法残留して悪いことをする。あるいは、密入国して居着く。だから移民を受け入れるきちっとした制度を作ればいいんじゃないかというのが彼の説。ただ、なかなか難しいなと思うのは、日本の場合は、突然外国人がどーっと入ってきたら、日本人の慣習に合わないからと、外国人排斥みたいな動きが出てくる可能性はおおいにある。さっきの風呂の話もそうだ。典型的な外国人排斥の例だな。働き口を求めてやってきた外国人が排斥され、結果として犯罪者となるわけだ」
 まるでわたしが犯罪者を作っているような口ぶりですね。風呂に入るマナーが悪いのを怒ってそんなに悪いですかっ。あの惨めさを知らないからボスはそんなことが言えるんだあ。
「教えてあげたらいいだろう、教えてあげたら」
 だって言葉が通じないんだもん。
「タガログ語は使えるんだろう?」
 いや、歌は歌えてもタガログ語は喋れない……って、そんな話じゃなくて、わかりました、ボス。わたしが労働人口を減らさず、なおかつ、治安の悪化も防げる最高の方法を提案します。
「なんだ、そんな大層な考えが君にあるとは思えないが、しょうがないから聞いてやろうか」
 わたしですね、不妊治療をしてたんです。でね、あるとき、すっげー馬鹿らしいなと思って。というのも、試験管ベイビーはどうかなと思って医者と相談したら、1回60万だっていうんです。それで悩んで知り合いの編集者に相談したら、
「3度試したら新車が買えるじゃないですか!」
 って。そのときに思ったんです。なにもこの腹を痛める必要なんか、どこにもない。新車が買えるほどのギャンブルをする必要もない。子供だったら世界中に飢えた子供がいるわけですよ。戦災で親を亡くした幼子だっていっぱいいる。その子たちを貰ってくりゃあいいんです、貰ってくりゃあ。そして、肌の色は違うとしても、立派な大和魂を持つ子供に育てたら、一挙両得! あほらしい不妊治療の費用もいらなきゃ、飢えていた子供も助かる。日本の少子化にも歯止めがかかる。だからですね、これからの日本は、成長してしまった外国人の労働力に頼るのではなく、積極的に他国から養子を貰って育てたらいいんですよ! そしたら文化の摩擦や治安の悪化にはつながらないと思うんです。どうですか、この意見は。
「ふむ。なかなか面白い着眼点かもしれない。よし、君、ひとつ頑張ってだな、アラブあたりに行って養子を貰ってくる先駆けとなりなさい」
 温かいご声援、ありがとうございます。つきましてはアラブに行くまでの旅費をご援助いた……あー、どうして後ろをむくんですか、ボス、ボス、聞いてますかあ?
 かくして外国人養子計画は頓挫。心ある方、「山崎マキコ」宛てに支援金をお願いいたします。『論点』宛てじゃ駄目ですよ、かならず「山崎マキコ」宛てで、ちなみに銀行と口座番号は(以下編集部の判断によりカット)。
 それでは来週、またお会いしましょう。

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