2004.11.18
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
尼寺より女帝論
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「なにー、修道院にいる?」
「こ、声が大きいですぅ。お静かに願います」
「君はまだアレだ、アマとプロの中間あたりだからな。まず、アマになれ。なんちゃって。これ、ネタとして使っていいから」
 一週間ぶりでございます、皆様。わたくしいま、諸事情により、山深い人里離れた修道院にいる、んだけど、現代の悲しさですな。携帯とマシンがあれば簡単に俗世とつながっちゃうんですわ。あー、嬉しい、もんのすごく嬉しい。
 ボス、相手には取材だって伝えてないんだから、せめて静かに喋ってください。すでにもう、あれやこれや、冷や汗をかく場面があったんですよ。
「そんでだ、ちょうどほら、紀宮様と黒田さんが婚約したので、皇室典範の改正問題をやろうかと。つまり女帝論だな。それについて教えてやる。君も知ってんだろ、紀宮様が婚約して、テレビではそんな番組ばっかりなのを」
 いや、修道院にテレビないんで。でもネットのニュースでは知ってますよ。たいへんなことですな。
「本当ならもっとまえに発表するはずだったんだが、中越地震があったのでね。あまり晴れやかな話を発表するのはいかがなものかと宮内庁の配慮があって発表を伸ばしていたわけだ。それを朝日新聞が日曜日の朝、スクープをやっちゃった。実際の発表は12月の天皇誕生日あたりにやろうということになっていたらしい。なので黒田さんもインタビューを受けるけど答えてないという現状だ。で、問題は、浩宮様の妹が東京都の普通の人と結婚すると、皇室を追い出される。なぜなのか。ここからがややこしくなる」
 ややこしくなる件についてはですね、わたしとしてはかなりどうでもいいっていうか、大部分の人がどうでもいいと受け止めてると思いますよ。それよりも問題なのは、わたしの近辺にいる気楽な三十路の独身女たちですわ。皇室は、国の象徴なのであります。あのやんごとなきお方、ホント、伊勢神宮あたりで斎宮になってくれたらよかったんですが。そしたらみんな安心できたのに。これから大変ですよ、三十路の女たちは。四十路までは結婚適齢期と、試練の時間が伸ばされたんですから。そんで次は瀬戸際妊娠出産でしょ? 国民の医療費の負担は跳ね上がりますよ、たぶん。
「なんだ、君は。すこしもめでたがっていないではないか。祝おうという気持ちはないのか」
 あー、うっすらあります、ええ、うっすらですけど。
「で、だ。ここからがややこしくなるのだが、皇室典範の12条に、皇族女子は、天皇および皇族以外のものと婚姻したときは、皇族の身分を離れる。皇籍離脱という。そういう規定がある。なんでそんな規定があるかといえば、もともと、天皇家というのは男系でなければいけないと第1条にある。皇位は、皇統に属する男系の男子がこれを継承する。それから天皇および皇族は、養子をすることができないという9条がある」
 天皇家ではマスオさんができないって話ですね。なんとなくわかりますよ。


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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。別冊文藝春秋に連載の小説『ためらいもイエス』が今年4月に文藝春秋から刊行された。小説はほかに『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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