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なんでもこのたび、明治40年いらいほぼ100年ぶりくらいに刑法が大改正されるそうだ。
ボスが教えてくれたところによれば、たとえば殺人罪は現行刑法では「死刑または無期懲役、もしくは3年以上の懲役」だけど、この「3年以上」のところを「5年以上」に、傷害罪は「10年以下の懲役、または30万円以下の罰金か、過料(罰金よりも軽い)」だけど、これを「15年以下」と「50万円以下」に。そんな感じに変わるそうだ。
また、今回の改正の目玉には性犯罪の重罰化があって、「集団強姦罪」、「集団強姦致死傷罪」という新しい罪名ができた。早稲田のスーフリ事件をきっかけに女性の国会議員の集団ができて、性犯罪の厳罰化が実現した。
「いままではな、強姦罪は2年以上の懲役で、強盗罪の5年以上の懲役よりも軽かった。女性を陵辱する罪が、物を盗む罪より軽くていいのかということで、強制わいせつ罪も、強姦罪も、強姦致死傷罪も、いまの刑法の量刑よりも重くすることにした。さらに、集団強姦罪を作って、単独の強姦よりももっと重くするとした。しかも、新しくできるこの2つについては、親告罪ではない。親告罪だと被害者が泣き寝入りするケースが多いからな」
そうなんですか。女性の国会議員ってなにをやってんのかいまひとつわかんないとこあって胡散臭かったんですけど、たまにはまともな仕事もやるんですね。スーフリの和田なんか、たしか三十代のうちに立派に社会復帰を遂げたいとかブッ殺してやりたいような発言してましたからね。刑法の厳罰化はどんどんやったほうがいいですよ。
「ちなみに、なぜいま改正かといえば、検挙率の低下と凶悪犯罪の増加。もうひとつは厳罰化をすることによって、犯罪抑止効果を狙っているのな」
なるほど、ボス、ひととおりは納得です。でもねえ、正直なところ、本当にそれで犯罪抑止力の効果ってあるんでしょうか。
「なんでだ、なにか問題はあるのか」
たしかに現実的な解決方法のひとつではあります。
でもね、さっきの引きこもり発刑務所着のような連中、彼らにとって、刑務所が刑罰として役に立ってるかといったら、そうじゃない気がするんですよ。むしろ社会から自分を切り離してくれる、新たな保護者としての刑務所ですよね。
しかもぬくぬくと刑務所に養ってもらっている奴が増えた結果、拘置所と刑務所にいるのは7万5000人。定員より4000人もオーバーしてるというじゃありませんか。フトいことに外国人のなかには風呂の味をおぼえてベリベリワンダフルといってる奴がいたりするという、殴ってやりたいような話も聞こえてきますし。わたしなんか思いますもん。昔、生活保護の受給額より貧乏な収入で爪に火をともして暮らしていた自分がぜんぜん浮かばれないよ、刑務所にいさせてくれたほうがまだ人間らしい生活ができた気がするのに、って。刑務所のなかでこんなことはありますか? 明日の入金がおぼつかないから、今日は水飲んで寝ておこうとか。いまのわたしはそこまで貧乏じゃないけれど、そういう時期はたしかにあったんですよ。そして三十代のフリーターの雇用の受け入れ口がないいま、駆け込み寺としての刑務所の存在は、ますますサバイバルの手段としてクローズアップされていくと思うんです。現行のままの刑務所のありかたでは、犯罪の抑止力が強化されるのか、すごく微妙かと。
「たしかに日本の刑務所はぬるい。受刑者の人権にも配慮しないと、いろいろ言われる時代だからな」
わかりました、ボス。それじゃこうしましょう。これからの日本は、シンガポールに学べ、ですよ。ボスがいつだか言ってたじゃないですか、世界で一番死刑の多い国はシンガポールだと。
「そうだ。シンガポールが発表したとこによると、5年間で138人、死刑執行。ちなみに中国では3カ月間で1700人も処刑されたことがあったけど、所詮はあの国は13億人もいるから。400万人しかいないところで138人が死刑だぞ。おかげで街はとっても綺麗だ」
らしいですね、ガムひとつ捨ててないとか。
そうそう、それで記憶の底のほうから蘇ってきたんですけど、シンガポールで自動車に悪戯して鞭打ち刑にあった馬鹿っ少年がいましたよね。こんな野蛮な刑罰は人権侵害だと泣いてましたが。
「そう、よく憶えているな。クリントン大統領のときな。アメリカが抗議したがシンガポールは突っぱねた」
わたしは奴の尻の肉がビッタビッタ鞭でぶったたかれ肉がえぐられたとき、
「正義は行われた」
と心から胸がすっきりしたし、アメリカの圧力に屈しなかったシンガポール政府に拍手喝さいを送ったんですが、いかがですか。
「あれはまあいい裁判だったよな。あんな奴は、いちど尻の肉をえぐられるべきだな」
ですよね。だからこれから日本が目指すべきは、シンガポールだと思うんです。だいたいなんで犯罪者をわざわざ刑務所で保護してやらなくちゃならないんですか。金だってかかるんでしょう? だったら車に悪戯した馬鹿はケツに鞭打ち! たぶん、この人、二度と車に悪戯しようとは思わないだろうと。その延長で、レイプ犯も鞭打ち。徹底的に鞭打ち。途中でうっかり死んだら残念でしたという感じの刑罰にすれば、犯罪抑止力効果はそうとう見込めます。しかも叩いて放り出せば、刑務所の維持費もかかんない。放り出されたあと、傷の手当てがうけられるかどうかは、みんなの胸先三寸ということで。
といったわけで、「シンガポールに学ぼう 本当に犯罪抑止力のある刑罰の実施法」ということを語ってきたわけだけど、どうして自分がこれだけ熱心に本当の意味での重罰化を求めるかといえば、正直なところ、
「このままだと自分のなかの刑務所に入りたい欲求にいつか負けてしまうかもしれない」
という不安が根底にあるからなのだと思う。
強姦罪には懲役より強い体罰を。
行きづまった引きこもりには、炭鉱で働くような強制労働を。
そうなればわたしも人生の終わりまで、刑務所からの誘惑に打ち勝てると思うのです。どうかわたしを瀬戸際で誘惑から助ける意味でも、世間のみなさん、もっと効果的な厳罰をご検討のほど、よろしくお願いいたします。
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