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「人頭税って、なにを非人道的なことを言ってるんだね、君は。いいか、ちゃんと続きを聞きなさい。2005年の税制改正では、こういう抜け道がないようにしようって話なの。フリーターにもきちんと住民税を払ってもらおうと。
それだけじゃなくて増税もする。来年度、82兆円の予算が出た。しかし税収はみんな合わせても42兆円、半分しかない。だから半分を国債に依存する。でも、こんなことずーっといままでやってきた結果、国の借金が800兆円になっちゃった。おまけに、ここが大事なんだけど、2007年から2010年にかけて、いままで働いていた団塊の世代700万人が会社を定年になる。そうなると税金は払わないわ、年金は払わなくちゃならないわ。このまんま減税をしてたらえらいことになる。税調、つまり政府の税制調査会は、このまま減税路線を続けていたら、10年後には消費税を21%にあげても足りなくなると言ってる。それだったら、いまから少しずつ税金を増やしていたほうがいい。
さしあたりどうするかというと、定率減税をやめる。定率減税というのは、誰もが一定の割合で減税されるやり方で、1999年の小渕内閣のときに始まった。所得税の20%、それから、個人住民税の15%が減税された。なぜこんなことをやったのかといえば、景気がものすごく悪かったからだな。減税すれば景気がよくなるだろうと。以後ずっと続けたから恒久減税と言われていた。それをやめようや、そうすれば実質増税になる、というのが今度の税制改革だ」
ボス、異論反論オブジェクションです。わたし、そんなことをしても結果としては国の支出が増えると思います。
「なんでだ。現在400万人いるといわれるフリーターからの税収が増えるんだぞ」
なんでかっていうとですねえ、わたしは引きこもり第一世代かつフリーター世代の最年長の部類だからわかるんですよ。彼らは働くのが辛くなったら怒涛のように生活保護の申請に押しかけますって。
「そんな理由では申請しても却下されるだけだろ。大変らしいぞ、生活保護の申請を受理してもらうのって」
ボスの世代は真面目ですね。そんなの簡単ですよ。病気だってことにしちまえばいいんです。そのへんの心療内科に行って「死にたい」っていえば適当な病名の診断を下してくれますよ。ついでに「誰かが俺の悪口をいってる」だのいえば、もうちょっとランクが上の診断がもらえますって。そしたら一発受理でしょう。
「君、俺がそのあたりに詳しくないからといって適当なことを言ってないか。そんなに簡単に精神科医を騙せるものかね」
んじゃあ教えますけど、“金縛り”ってあるでしょ? わたしの友人がね、犯罪被害者に取材をしたら頻繁に金縛りにあうようになって。よく眠れないっつーんでわたしが行きつけの心療内科を紹介したんですよ。そこで友人が、
「男が刃物を持ってわたしの顔を覗き込む金縛りにあいます」
と告げたら、一発でリスパダールの処方ですよ。なんだかわかりますか? 統合失調症の代表的な処方薬ですよ。たかだか金縛りなのに。誰だって金縛りぐらい、一度や二度は経験してるでしょ? だからね、確定申告しないヤツは人頭税。恒久減税廃止反対! これ以上税金を取られてたまるか。
「あのなあ、日本人の悪い癖だと思うのだが、どうしてそんなに税金の支払いを渋るのだ。君らだって恩恵は受けているわけだろう? 税金が高い高いというけど、日本の税金は決して高くないのだ。税金と年金保険料、この負担をあわせると、所得に占める割合、国民負担率は35%。ヨーロッパよりはるかに低い。イギリスは50%、ドイツは55%、フランスが63%。スウェーデンにいたっては75%だぞ。国民の義務として、払いなさいよ」
だってボス、わたしがいくら世間知らずでも“国のOB”ってのがいて、我々の税金を盗人猛々しく、しこたま奪っていってんのは知ってんですよ。しかも血の滲むような思いをして支払った税金で諫早湾のムツゴロウは殺すわ、いりもしない関西国際空港の拡張工事は行なうわ。しかもあいつら、ゴキブリ以上に生命力が強いから、撲滅しようとしても無理でしょ? あいつらに金が回るんだと思うと泣けてくるんです。テロリストが霞ヶ関を爆破してくれねーかなと思うんです。いっそ自分が自爆テロをやりたくなってくるんです。貴様ら、ワシの金を返せー。返せないなら一蓮托生で死んでやるー。
「わかった、落ち着け。ではわたしが本来こうあるべきだと思うやり方を教えてやろう。あのな、じつは消費税なんだよ。ヤクザは税金をとられないという話もあるだろ。けど消費税ならヤクザだって払う、物買えば。それだったら消費税のほうにシフトしたほうが正しいだろ」
ここでハタと目が醒める。た、たしかに!
「実際、日本の消費税5%というのは安いんだよ。ちなみにフランスは17%だからな。ただし食品とかは据え置き、ってことにしておけばよろしい」
なるほど、それだ! どうせね、日本人なんて余計な金を持っていても外国製のブランドバッグとか買っちゃうだけですから。食品は絶対駄目ですが、衣料品や車とか、消費税35%ぐらいに上げましょう。そうすれば国のOBに奪われた金が取り戻せる。
「それは甘いな。『七人の侍』って映画知ってるか? 最後のころに生き残った侍がさ、『俺らは勝ったんですかね?』とつぶやくと、『いや、勝ったのは農民だ』と答えるシーンがある。農民の知恵で、取り上げられちゃうから隠して確保しておこうというのがある。税金は払わないけど貯金はあるという状態になる。国のOBもそうなるだろう。お金はいっぱい持ってるけど、買わない自由を行使する。だから彼らには、給料を払った時点から50%は消費に回すという規定でも作ればよろしい。使わなかったら取り上げる。これでどうだ」
なるほど、それいいっスね。とりあえず食品以外の消費税は上げて、国のOB対策はボスの案で行きましょう。
「しかしな、君。食品のうちでも贅沢品ってあるだろ。あれは消費税をかけるべきだと思わないか?」
食品の贅沢品ですか? ちょっとすぐには思い浮かびませんが、たとえばなんでしょう。
「ほらさ、チーズとか。あんなもの、贅沢品だろ?」
ここでボスとのあいだの世代格差を激しく感じる。
チーズって贅沢品なのか? わたしが最高に貧乏だったときでも、チーズは食べていたような気がする。ドムドムバーガーのハンバーガーのあいだには、薄っぺらいスライスチーズが入っていたような気がする。
チーズが贅沢品かどうかは、ボスとの折り合いがつかないままで話が終わったが、一応、今回の結論。食品(チーズは含まない)以外の消費税は35%までアップせよ! 国が破産するまえに、消費税でなんとかしよう。
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