2005.01.20
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
アサリ不買運動は是か非か その1
全2ページ
 さて九龍城に話が戻って。追いかけられて脱出に成功するまでの話をつらつらと語っていたら、編集部員の一人にこう尋ねられた。
「そもそもなんで山崎さんは追いかけられたんですか、その中国人の男に」
 わたしは先ほど語ったように「人種の違いは死を意味するときもある」というのを身をもって感じたことがあるので、なぜそんな質問をされるのか意味がわからず、困惑しながら答えた。
「どうしてって、だからわたしが日本人だったからじゃないでしょうか?」
 しかしその人はわたしを信用しない。
「それだけで追いかけてきますかあ? まーた、路地裏で右翼的なことでも叫んだんじゃないの」
 驚愕して尋ねた。
「右翼? わたしのどこが右翼なんですか」
「だっていっつもそんなことばっかり書いてるじゃないですか、『時事音痴』で」
 すると周りがゲラゲラと笑い出したのである。しかもそれを否定する人がだれもいないようだ。本当に驚いた。
 わたしはいつ右翼になったのだ? 大誤解である。
 だってわたしは護憲派ですよ、憲法第九条はこの先ずっと守り抜いていかなくてはならないと頑なに思ってる人ですよ。師匠と仰いでいる人が左翼系の人なので、
「バカサヨの教え子」
と言われて、我が師匠を馬鹿呼ばわりするとは何事だと激怒して大喧嘩をやらかしたこともあるんですよ。師匠には何度も、
「山崎、マルクスは読んだか」
と尋ねられて、
「読んでません。というか、読みません」
「どうして読まないー、マルクスを読めー」
「読まないったら読みません」
と答えてるけど、自分では自分のことを左翼だと思ってんですよ。その証拠に、ジャップ、ジャップとなぶり殺しにされても、わたしは力による報復を考えなかったのだ。その後も何度かアメリカ人に殺されたけど、自分から殺そうとしたことは一度もない。日本人ゲーマーのなかにはキャラを育てて集団でアメリカ人に報復する連中もいたっていうのに、わたしはゲームのなかでも憲法九条を守り続けたんである。どうだ、とっても左翼でしょうが。マルクス読まないけど。
 で、今回なんで執拗にこんな話をしているのかというと、このたびのお題が北朝鮮への経済制裁だからなんである。よその国の国民を拉致したうえに別人の遺骨を出してきて、日本側の鑑定結果を捏造呼ばわりとは。
 こんな犯罪が許されてなるものか。犯罪国家相手に断固たる措置をとれない日本っていったいなんなの? と、だれしもが思うことを感じたのである。
 そもそもわたしは“経済制裁”ってものが具体的になにをするのかわかんない。そのへんはボスに教えてもらいたいとこなんだけど、その“経済制裁”とやらを、とっととやったほうがいいじゃないか。なんでみんなが及び腰なんだ。訳わからねえ。てなことをボスに訴えたところ、
「いいけど、わたしとしては、経済制裁なんてあんまり意味ないと思うぞ」
と言って、経済制裁の内容について簡単にレクチャーしてくれたあと「北朝鮮とは力による対話しか残されていないかもしれないな」ってな意味のことをボスが言外に匂わせたのである。
「テポドンを撃つなら撃ってみろ、っての。一発打ったらその30倍、アメリカが撃ち返してくれるわ!」
 えええ、それはマズいですよ。テポドンが飛んでくるのもまずいし、それを契機に戦争になるのも、もっともっとまずい。そうなったら当然、日本は後方支援という名のもとに、本格的な戦争への道に突入しちゃうじゃないですか。憲法九条は恒久的に守られるべきだとわたしゃ思ってるんですよ。平和的な解決の道を探りましょうよ、ボス。
 というわけで、いよいよ次回から本題。
 北朝鮮に対する経済制裁のあらましをボスから教わると同時に、力に頼らない報復措置について、無い知恵を絞って考えていこうかと思います。

前のページへ
全2ページ
バックナンバー一覧へ

閉じる
Copyright Bungeishunju Ltd.