2005.02.10
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
コレラ患者とミーガン法 その2
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「ところが日本の場合は、加害者に対する人権侵害が問題になる。罪は懲役という形で償っている。だから出所後、住所や写真を公開するのは、罪を償った人間に対する人権侵害だと。前歴情報の公開は、刑期を終えた人への偏見をあおるという日弁連の反論がある。また、ミーガン法というのが、犯罪の抑止効果になるかどうかもわからない。個人情報が公開されれば、加害者の社会復帰はしにくくなる。たとえ反省したとしても。市民からリンチを受ける可能性もある」
 ああ、いいですね、リンチ。
 コレラ患者も“下痢チョビ君”とかあだ名つけられて、実質上のリンチを受けますからね、なんの罪もないというのに。だったら罪のある性犯罪者を国民がリンチしてもまったくOK、わたしは大賛成です。司法ができない懲罰を、市民の手で実現しましょう!
「あのな! 日本は法治国家なの。そんなのは駄目なの。そういう意味ではミーガン法は難しい。そこでイギリスでは、性犯罪者の体のなかに追跡用のICチップを埋め込むということが検討されている。また、アメリカの州の一部やノルウェーでは、悪質な性犯罪を犯したヤツは、ホルモン療法によって性欲をなくしてしまう、という対策がとられている。常習的な性犯罪者はいくら刑務所に入れても治らない。小林のような男には、それしかないんじゃないか。幼児性愛だの屍体愛好なんていうのは、異常な性欲だ。性欲がなくなれば、犯罪まで至らないということになる」
 まあね、理屈ではそうでしょうが、わたしは本当に効果があるのか疑問だな。さっきも言いましたけど、小児性愛者が犯行に及ぶ動機はホルモンだけで説明できるんですかね? 社会に対するルサンチマンが原動力になっているんじゃないかと、個人的に思ってるんですよ。だとしたらホルモン治療は無意味だろうと。
 結局、ボスとは折り合いがつかないままに話は終わった。
 わたしの、なかば信念となっている「幼児性愛者は社会に対するルサンチマンを抱いて犯行に走る」の説は、なんとなく周囲にはピンとこないものらしいと悟った。まあしょうがないんだが。説明のしようもないし。
 で、隔離つながりでふと思い出したんだけど、わたしが育った村には、村の奥に謎の施設があった。なんの施設とはあまり公言されていなかったのでどう説明しようかなと思ってさっき検索したら、「国内最大規模の総合社会福祉施設」との説明があった。で、その施設から人が逃亡すると、村民が山狩りするんだよね。これでなんの施設なのかうっすら見当がつくというもんだけど。
 ある冬の日、この施設から逃亡者が出て、やっぱり村民で山狩りをやったんだけど、いっこうに見つからない。で、自衛団のひとりが家に帰ってみて激しく驚いたわけ。というのも、探していた当人が、自分ちの留守宅にちゃっかり上がりこんで、コタツに入ってぬくぬくと蜜柑食ってたから。やれやれ参ったよで話は終わるんだけど、こんなことはたびたびあった。だからわたしは思うのだが、本当の病気の人って、こんな感じに無邪気なものだと。小林薫のように、出所するなりまた別の幼女を探して歩くようなのはあくまでもただの「犯罪者」であって「病人」ではないと。病気という言葉は、コレラ患者であるとか、人んちのコタツで蜜柑食ってしまうような罪なき人のために、とっておいてくれと。そう願わずにはいられないのだ。
 すべてを精神の「病気」のカテゴリに入れるのは、本当に精神の病気を抱えた人への偏見を助長するだけだと、わたしは言いたい。そして小児性愛者は「病気」なんかじゃなく、単に道徳的に問題を抱えただけの、人間のクズであると。そうした人間には懲罰を超えた法的措置が必要であると、それがミーガン法なんではないかと、わたしは思う。
 リンチの可能性も含めて、わたしはミーガン法を支持する。彼らが社会的秩序を壊すことを快楽とする以上、社会からも相応の扱いがあってしかるべきだと考えるので。
 それでも連中を「病気」と呼びますか?
 わたしは、そんなのは嫌だ。

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