2005.02.17
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
NHK不払い運動と珍味の哀しみ
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 まったく根拠のない疑いをNHKに抱いている山崎です。どうもこんにちは。
 今週はわたしの希望により、NHKがどんな悪を犯しているかをボスこと論点の編集長の渡辺さんに教えてもらおうと思ってます。
 ボス、巷じゃどうもNHKの不払い運動が流行ってるみたいだけど、なんでなんですか。かいつまんで教えてください。NHKは、どんな悪事をはたらいたんですか。
「んーとだな、まず尋ねるが、君はNHKとのあいだになにか契約を結んでいるか?」
 さあ、どうなんでしょう。金のことは全部相方任せで財布の紐は相方が握ってるんでよく知らないんですが、どうも我が家は受信料の「銀行引き落とし」ってのを行なってるらしいんですよ、こないだ糺したら。
 で、そんなもん速攻でやめちまえって言ったんですがね、ヤツは「国民の義務だ」って答えて意固地なんです。ですからなんだ、契約? 結んでるんじゃないんですか。
「じゃあさ、ガス料金みたいに、契約の書類に記入した?」
 さー、これもさっぱりわかんないんですが、相方がわたしに無断でやったかもしれません。
「あのな、そんなことをしてる人は日本中探しても誰もいないの。まずここが問題なんだな。そもそもNHKに受信料を払うという契約書は存在しない。だけど法律があるのだ。1950年に施行された大昔の放送法。これは協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない、と。つまりだね、テレビを買って自宅に持っていった段階で、NHKと受信契約が成立したということになる」
 え、そうだったんですか? マジで?
 そんな馬鹿な法律がNHKの牙城を築いたんですか。
「こんな法律、わたしもおかしいと思うんだけどさ。東京ガスでも水道でも、入れてくださいとお願いする。しかもガスの場合は、払わないと止められる。契約違反だから。ところがね、NHKというのは、電気さえあれば止まらない。払わなくても放送は入ってくる。変だろ? 水道や電気は止まるという罰則がある。ところがNHKの場合は放送が止まるわけじゃない。つまり契約を結ぼうが結ばまいが、払おうが払わまいが、罰則はない。ちなみにBBCには罰則規定がある。最高、1000ポンド(約20万円)の罰金。この罰金を払わないで収監される人もいるらしい。ただ、どうなんだろうね? わたしはNHKの番組というのは大変好きなんだが、君はなにが嫌なのだ」
 いえ、わたしだってね、「プロジェクトX」を見れば泣きますよ。田口トモロヲの語りが始まった瞬間から泣くんです。まだ放送が始まったばっかりでも。霞が関ビルの回なら「ビルー」と叫んで泣きますし、黒部ダムの回なら「ダムー」と叫んで泣きます。ついでにいえば、わたしテレビってNHK以外、ほとんど見ないんですよ。子供のころ父親に厳しく思想統制されまして。民放のバラエティとか歌番組とか見せてもらえなかったんです。報道関係もNHK限定でした。ただし紅白歌合戦は見せてもらえませんでしたが。
 で、いまもその名残で、NHK以外の番組を見てると悪事をはたらいてるような気がするんです。あと、わたし、高校のころはNHKのラジオ放送によく投稿してまして。葉書職人ってヤツですが。投稿すると百発百中で読んでもらえるんで楽しくって嬉しくって、一生NHKの受信料は払い続けようと思うぐらいのNHK大好き人間だったんですよ。
 でもね、根拠がとっても薄いんで激しく主張はできないんですが、わたしはNHKにひとつ疑いを抱いてるんです、哀しいことに。
 今度2月28日に新潮文庫から『マリモ 酒漬けOL物語』ってのを出すんですけどね、もともとはPHP研究所から出た本だったんです。で、当時の担当編集者がはりきって「渋谷から火をつける」とか全然訳のわかんないことを言い出して、とにかく渋谷に猛烈に営業をかけたんですよ。ある書店なんて、浜崎あゆみの写真集といっしょにドーンとわたしの本をディスプレイしたりして。
 したらですね、その4カ月後に事件が起こったんです。わたしのファンサイトの掲示板に書き込みがあったんです。
「いまNHKで放映されている『×××××』というドラマ、女性の主人公が珍味会社の商品開発部を舞台にしてるとこが『マリモ』と設定が同じです。おまけに『マリモ』同様、有機農業に取り組む人が出てきます」
 なんでもドラマの制作期間ってだいたい4カ月だっていうんですよ。なんだそりゃってことでPHPの担当編集者と話し合って、PHPを通じてNHKに問い合わせしたんです。すると回答は「まったくの偶然です」だったんです。すげー偶然があるもんだなと。主人公が珍味会社の商品開発部の社員である物語が、4カ月のタイムラグでふたつもできるのかよと。
 わたしだって信じたいんですよ、本当は。
 自分の高校時代って、本当に暗かったんです。ストレスで過敏性大腸炎ってのになっちゃって、学校行くと腹が下るんです。家に帰ればため息がでるんです。それを助けてくれたのはNHKだったんです。NHKのアナウンサーが自分の葉書を読んでくれるのだけが楽しみで生きていたんです。感謝してんです。だからNHKがそんなセコいことをするなんて思いたくないんです。
 でもね、そんな偶然、本当にあるのかな。
 考えると疑いばかりが膨れ上がって苦しい。それからわたしの本を読んだ人が「これ、NHKのドラマのパクりじゃん」と逆に思ったりするんじゃないかと想像すると泣けてくる。


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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。別冊文藝春秋に連載の小説『ためらいもイエス』が今年4月に文藝春秋から刊行された。小説はほかに『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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