2005.02.24
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
ダルビッシュと禁煙ファッショ
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「わたしはなにも、全面的に禁煙しろという禁煙ファッショではないのだ。ちょっといいですかって尋ねてくれたらいいんだよ。『May I smoking?』とかさ。そしたらこっちは『My pleasure』とかさ、美しい関係が築けるじゃないの。気にしてることがわかれば『なかなかいい女じゃないか』ということになる。ちょっとウキウキしてくる」
 ああ、それね。タクシーに乗ったときはわたしもやりますよ。するとたいてい、運転手さんは喜んでくれますね。どうぞどうぞお吸いくださいと。最近はどこでも吸えなくなって大変ですねと。
 わかりましたよ、今後はボスのまえでタバコ吸うときは、ウキウキさせてあげますって。
「でもさあ、基本的には辞めたほうがいいと思うぜ。たまたま新聞を見ていたら、大崎善生という作家がタバコを辞めて6週間経ったという話を書いていて。まずは味覚がよくなった。タバコがうまく感じるようになった。寝つきがよくなった。寝覚めも爽快になった。20年ぶりにのぼせて鼻血が出た。血流がよくなったってことだろう。胸が軽くなったともいってる。わたしもな、かつては喫煙者だった。それは君も知っていると思うが。でも、やめたらひとついいなと思ったのは、酒がうまい! こんなうまいものがあったのかというぐらいうまい。それは嗅覚と味覚の違いだと思うな。あと、山へ登るじゃない? いままで息を切らしてたのが切れなくなる。あれは大きい。この大崎さんは、胸が軽くなったことを、車でいえば排気量が2倍になった感じとたとえている。どうだ、辞めたくなってこないか」
 いんや、全然。わたしも吸うようになったとたんにですね、それまではフィットネスクラブで5qは走れていたのが、3qで息が上がるようになって。びっくりしたけど、どうでもいいやと思いました。別に飛脚が商売じゃないしぃ。
「肺ガンになる可能性だってあるんだぞ」
 ああ、それについてはだいぶ脅されましたよ、各方面から。主に姉と舅ですが。舅はね、医学部の教授だったんで、国際肺ガン学会だったかなあ? なんかそんな感じの名前の学会に行った帰り、わたしに赤いバッチを手渡しまして。そこには「LUNG CANCER AWARENESS DAY NOV.17」って書いてあるんですよ。それから延々とタバコの害について語ってましたね。軽く無視してましたけど。で、この赤いバッチを黒いジップアップのニットにつけてるんですが、このバッチがすごく評判がいいんです。格好いいねってよく言われる。みんななにが書いてあるのかはわかってないみたいだけど。だからこれをつけて吸うと、タバコが3倍うまいんです!
「だからさあ、わたしだって禁煙ファッショになろうとは思ってないわけよ。ダルビッシュがパチンコ屋でタバコ吸ったので問題になてるけどさ、叩いているスポーツ記者とか、新聞記者とか、そういう連中はさ、15歳から吸ったって自慢してる連中がすごく多いわけよ。そのくせ、ダルビッシュが吸ったからって、叩くのはおかしいとは思う」
 まあ、彼の場合は、「未成年だから」と叩くのは間違ってるとわたしは思います。叩くのだったら「スポーツマンのくせに」と叩くのが正しいかと。わたしは飛脚じゃないからタバコを吸ってもOKですけどね。スポーツマンは体が資本なんでしょう? それなのにタバコを吸うっていうのはプロ意識としてどうかと思いますね。彼はまだプロじゃないんでしたっけ? まあどっちでもいいや。とにかく将来的にも野球で食っていこうと思っているなら、プロとして、辞めるべきです。
「なんだ、君もちょっとはまっとうなとこがあるんだな」
 そりゃそうですよ。2年前までは非喫煙者だったんだから。もともとはタバコが嫌いだったんですよ。だからマナーにはけっこう厳しいんです。
「それがまた、なんだって吸うようになったんだよ。わざわざこんなもんを」
 うーん、それはですね、偶然と父の後押しの成せる業なんです。もうとっくに時効だからいいだろうと思うんだけど、わたし若い頃、アホだったので大×とかやりまして。これがね、ぜんぜん良くなかったんです。バッドトリップっていうんですか? 大変なことになっちゃいまして。ちなみに我が家には妙な家訓があって。その1は、
「ヒロポンは手を出すな。世界で一番汚いクスリだ」
ってもんなんで、わたしは家訓に従い、覚せい剤には絶対手を出すまいと。で、その2は、
「ヘロインにはギリギリまで手を出すな。家を一軒売るのなんて簡単だ」
というのがあって、死に際になってから試そうと。で、大×にはとくに家訓がなくて、
「ヘロインとマリファナを一緒にやるのが最高だ」
とは聞いていたんだけど、とくに家訓ではなかったんです。だからこれはダウナー系かなと思って大×試したんだけど、ちーっともよくない。ところがですね、2年前の冬の朝、夫がベランダのチェアに座って、じつにうまそうにタバコをふかしていた。そんなにいいもんかいなと。試しにちょっと吸ってみたら、これがですね、見事にダウナー系なんですよ。わたしの求めていたのはこれだーっと思いましたね。そしたら父がとっても喜んでくれて。
「おまえもようやくタバコが吸えるだけの大人になったか! どうせ吸うなら缶ピース吸え」
と。愛用のダンヒルのライターくれました。もっとも、缶ピースを吸えという父の教えは守れなかったんですが。重くて。
「君んち、なんか変だぞ。聞いてるとこっちの頭がおかしくなりそうだ。なんかもうどうでもよくなってきた。俺は帰る」
 というわけで、ボスをおいてけぼりで勝手にわたしが今週の結論。
 非喫煙者との棲み分けのために、全国各地に、阿片窟のようなタバコ窟を作ってください、JTさん。入場1回300円ぐらいで。どこでも吸えないと思うから、迷惑な場所でも吸いたくなるんです。でも吸えるという場所が確保されていれば、他の場所では吸わないんだって。空港の喫煙所をみればわかるでしょう? そういう場所を作って運営すれば収入も増えますし、非喫煙者も大喜び。飲み物なんかも販売すれば、利益はもっと増えますよ。これ、どうですか?

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