2005.03.03
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
ほりえもんの首の太さとポイズンピル その1
全2ページ
 うーん、なんか書いていたらだんだん気分が悪くなってきたな。あとは青山で某教団に囲まれたとか歌舞伎町でヤクザの抗争に巻き込まれたとか、いろいろあるんだけど、もう省略だ。とにかくフレディーは「危険な目に合ったこと」がとっても嬉しそうだった。その証拠に、わたしとフレディーのふたりで薬物依存症者の回復施設に一泊して取材したことがあったんだけど、わたしにとってはその一夜はけっこうな試練だった。
 というのも、施設長の話によれば薬物依存症者が幻聴だの幻覚だのに悩まされて包丁を振り回して廊下を走り回るなんてのは日常茶飯事だっていう話で、
「まあ、適当に気をつけてください」
っていわれたんだけど、刃物を持って走ってきたガタイのいい成人男性をどうやって“適当に”避けろっていうんですか! わたしは部屋の鍵をしっかり閉めて、それを何度も確認してベッドに入ったが、となりから禁断症状に苦しめられているっぽい唸り声がずーっと聴こえてきて怖くてたまらず、ほとんど眠れない一夜を過ごした。そしてフラフラになって朝を迎えたら、フレディーが、朝の光のなか、生き生きした笑顔を浮かべて、
「こんなにたくさんの薬物依存症者に囲まれて寝るなんて、まずできない、素晴らしい体験だよな!」
と、ラジオ体操を始めたんである。
(この人は戦場で生きるのが快楽なのだ。わたしとは人種が違う!)
 そう思い知らされ、わたしはフレディーのそばから逃げ出したくなった。ちなみに薬物依存症者の回復施設に取材に行こうと発案したのも、もちろんフレディーである。
 で、わたしはフレディーに怒鳴られつつ(本当に怒鳴るのである。比喩ではない。ヤミ金の取り立ても真っ青な怒鳴り方だった。あんな目にあったのは、あとにもさきにもフレディーが担当だったときだけだ)原稿を書いたわけだが、ある一件がフレディーに完全服従していたわたしをブチ切れさせ、縁を絶った。
 その件についてはわたしはいまも「許さん、フレディー」と思っているんだが、それじゃフレディー全体を許していないかというと、微妙である。
 書くかどうかだいぶ迷うところだが、彼がそれを編集部でも公言していたというから大変迷いつつ書く。薬物依存症者の施設からの帰りの電車のなかで、彼がなにを思ったのか、ふいにこう言った。
「俺の育ての父親は、母が再婚した相手なんだよね」
 なにを思って彼がわたしにそう告げたのかはわからない。ただ、それでわたしはある程度のことに察しがついた気がした。ああ、あなたはAC(アダルト・チルドレン)だったのか、と。首を太くした理由も、わかってしまったような気がした。首は、人間の急所だ。わたしは一度、彼と同様、人に首を絞められたことがあるが、絞められながら思ったものだ。
(やっぱり一番安易な殺人方法って、首を絞めることなんだなあ)
 殺されるかもしれないのにだいぶ呑気な話だが、わたしもどこか安全に関する意識がぶっ壊れているのだろう。彼ほどではないにせよ。
 諸事情があって、わたしにはACの知り合いがたくさんいる。ACと一口にいってもタイプはいろいろなのだが、逆境をバネにして社会的に成功を収めたACというのは、なべて攻撃的なのだ。浜田省吾の歌に「MONEY」ってのがあって、歌の主人公は小さな町で、父親に逃げられ、兄が「油まみれで俺を」育てる。そんな彼が血を吐くように叫ぶ。
「いつか奴らの 足元に BIG MONEY 叩きつけてやる!」
 自分を助けなかった世界への恨み、そして怪物のように心のうちで育て上げてしまった金銭欲、それの根本にある世界への復讐としての支配欲を歌に表したから、浜田省吾は一時代を築いたのだなと思う歌詞だ。
 激しい攻撃性。
 いつか世界を足元にひれ伏せさせてやるという怨念。
 逃げられない危険を“楽しさ”と感じるよう捻じ曲げた感性。
 それだけがあなたを守ったのか?
 ほりえもんを見れば見るほど、あの人のことを思い出した。

 テレビを見ている夫からそっと離れて、ほりえもんについてネットで調べた。予感は当たった。彼はどうも原家族にあまり恵まれなかった人であるらしい。だからなのか、女をやたらと取り替えている。これもACらしい特徴だ。ロケットを火星まで飛ばしたい、と書いてあった。アポロ11号が月にアメリカの旗をたてたとき、世界はアメリカの足元にひれ伏した。ほりえもんは、それ以上のことをやりたいのか?  ため息がでた。
 わたしは時間外取引が法に触れていない以上、ほりえもんを責められないと思う。これからは経営権取得目的の時間外取引については規制する法律ができるらしいが、法律ができる以前に行われたことは、司法は裁いてはならなかったように記憶している。外資の融資を受けて時間外取引で敵対的株取得を行ったこと。これについてもずいぶん叩かれているようだが、むしろ、ポイズンピル(既存株主に対して「敵対的な株の買収によって買収者が一定の議決権割合を取得した時点で、市場価格より安い価格で株式を引き受けられる」という条件の新株予約権を発行すること)を用いようとしているフジテレビに怒りを感じる。
「おい! わたしの話はどうなったんだ?」
 あ、いけね。横でボスが怒ってるや。そうそう、ボスもほりえもんについて熱く語ってくれたんだけど、入れる余地がなくなっちゃったや。
 ちなみにボスはほりえもんを支持しているそうだ。で、わたしが調べたところによると、ほりえもんを支持しているのは男性が多く、なぜか女性、それも既婚女性には徹底的といってもいいほど支持されていないのだ。このへん、なぜなのかを考えつつ、さらにはフジテレビの行動の是非について、次回はちゃんとボスの話を交えて書こうかと思います。
 すまんですねえ、ボス。はっはっは。
(参考URL http://dic.yahoo.co.jp/tribute/2004/11/28/1.html
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