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さてまあ、今週は殊勝にボスの意見のほうを聞いていこう。
「株式の売買は、みんなの見ているまえで不特定多数が参加できる形でするのが一番いい。時間外取引というのは、市場が終わってからできる取引だ。これは機関投資家が大量売買したり、グループ内の再編のときにする取引で、敵対的買収のときにはしない。敵対的買収なら、情報を全部公開するTOBでやるのが原則だ。だからライブドアは法のすき間をくぐったといわれたわけだが、ただ、そのことはたいした問題じゃない。
ようするに、ニッポン放送が、IT企業に乗っ取られるのが嫌だというわけだ。でも、もともとフジサンケイグループのひとつであるフジテレビの株は、ニッポン放送が持っているといういびつな状態だった。フジテレビはその状態をなんとかしようと、TOBでニッポン放送の株を買い集め、子会社にする計画を以前からもっていた。ところが、そのTOBを実行する前にライブドアが横から乗り込んできて、ニッポン放送の大株主になってしまった。ニッポン放送がフジテレビの大株主であるいまの状態がつづけば、ほりえもんはニッポン放送を支配すると同時に、フジテレビを支配できることになる。だからフジとしては、今回のTOBをなんとしても成立させなければならなかったのだ」
まぬけなことに、おそらくはすでに周知の事実であろうことを知る。そうか、ニッポン放送が乗っ取られると、自動的にフジテレビが支配下に。それでポイズンピルを使ったんだ、フジテレビが。いや、正直なとこさ、ニッポン放送を守るためにフジがそこまでやる理由が見えてなかったんだけど、ようやくわかった。
「だからほりえもんは、不正ではないけど、荒っぽい取引をした」
ソフトバンクの孫会長が一度、マードックと組んで似たことをやってますよね。
「そう。オーストラリアのメディア王のマードックと孫が組んでテレビ朝日を買おうとしたけど、結局、撤退した。外資に乗っ取られてはたまらない、という激しい批判があったからだ。だけど今回は、放送とITとの戦いだといっていい。放送は公共に資するという使命がある。そこへ訳のわからん者が入ってきて、ITとメディアの連携などと言い出した。そんなのは許せんと。
この戦いをもっと言うとだね、老舗組と新参組の戦いでもある。それと、守旧派と改革派の戦い。この場合、改革派はほりえもんだ。エリートと非エリートの戦いともいえる。つまりね、テレビ局なんかは5000人に1人が入社試験に受かるというものすごく狭き門で、エリートなわけだ。そうしたマスコミに入れなかった連中がITに流れていった。テレビは、公共放送とはいうけどさ、実際はエンターテインメントだ。いまや実質上はITこそがインフラに近い。だから公共放送を守るという建前は、どうも奇妙に聞こえるね。ニッポン放送は、社員の平均年齢39歳で平均1164万円の給与だという。非エリートがエリートに戦いを挑んでいるという構図が見えるだろう。
そういう構図があるから、ほりえもんに対する同情が集まっている。実際、先々週の日曜日のサンデープロジェクトでは、田原総一朗がインタビューしてるときに、まわりのおじさんたちがいじめていた。そのあと田原さんが週刊朝日に書いているんだけど、『あのときはサンデープロジェクトにほりえもんが3週連続で出演して、わたしはもちろんゲストコメンテーターたちが矢継ぎ早に厳しい質問を投じた。堀江がたじろぐ場面があった。ただ、毎回視聴者から、200本の電話がかかってきて、90%近くが、堀江支持だった』といっている。たとえば記者会見に出てくるときも、ネクタイをしないのはなんでだという批判をするのはじいさんたちだよな。
それでフジテレビは、『堂々と受けて立つ』といって、ニッポン放送にフジテレビを引受先とする新株予約権を発行させた。これは厳密にはポイズンピルとは言えないという専門家もいるが、要は市場より低い価格の新株を大量に発行することによる増資だ。フジがこれを買えば、ほりえもんの持ち株の比率が下がって、フジは市場よりはるかに安い元手でニッポン放送を子会社化できる」
はい、そのへんの知識はわたしにもあるんですがね、どうして他の株主から怒りの声がわいてこないのかがわかんないんですよ。なんでです。
「なんでか? そりゃ、ほかの株の多くは、広告会社とかフジテレビに関連した会社が保有しているし、一般株主は結果がどうなるかわからんから、まだ様子見さ! ひょっとするとライブドアの差し止め請求が認められるかもしれないしな」
そうだったのか!
だから他の株主からの怒りの声ってあがらなくて、フジテレビ対ほりえもんの一騎打ち勝負になってんのか。よーやく解ったぞ。
「だから、ほりえもんが負けたとしたらだ。こういう新興勢力を排除しようと思ったらポイズンピルを使えばいいという前例ができてしまうだろう。それはいかがなものかね」
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