2005.03.31
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
合併特例債と矢祭町頑張れ その2
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 さて先週の続き、矢祭町の山でマタギが捕ってくるイノシシがうまい件について。じゃなくて、市町村合併の話です。
 ボスに合併の弊害について語ってもらいましょう。
「合併の危険性というのも、一方ではある。それは過疎地がますます過疎化する可能性があるってことだ。合併すると、別な自治体の一部になるわけだから、過疎地は自分たちの利益代表が出せなくなるかもしれないだろ。要求もできなくなるから、ますます過疎になる」
 な、なるほど。いわれてみればそうだ。
 ほかの自治体と合併しても、矢祭町みたいに過疎化が進んでるところでは、市議会議員ひとり選出するのも並の苦労じゃないし、選出できたとしても、政治的な駆け引きに使えそうなものがなんもない。たとえば企業のひとつでもあれば、町民の人数が少なくてもなんか言えそうな気がするけど、あるのはイノシシの出る山と林と渓流と、山あいのこんにゃく畑だけ。うーん、素人目に見ても、駆け引きの材料になるとは思えない。いや、矢祭町のイノシシの肉はうまいんだけどさあ、地元にいるあいだ、ももんじ屋(山にいる獣の肉を料理して出してくれるとこ)で、だいぶお世話になりましたが。
「矢祭町を粗末にしたら、イノシシ食わせないぞ! こんにゃくもやらね」
と脅されてもな、まあいいかで終わっちゃいそうだしな。
「そうだ。だから矢祭町なんていうのは、町の職員の給与は安いし、ボロボロの庁舎で仕事している。議員なんかも報酬カットだ。それでも合併しないというのは、合併したからといって、矢祭町にメリットがあると思えないからだ」
 知らなかった、あの矢祭町の行政は、そんなに偉かったのか。
 偉いぞ、矢祭町の町議会議員たちと町の職員たちよ。頑張れ、君たちの肩に矢祭町の将来がかかっている。過疎化に歯止めをかけろ。
 皆さん、矢祭町に遊びにいってあげてください。
 とれたての鮎が食べられる、いい町です。いや、ホント。とれたてっつーのには嘘がないから。あと、川きれい。渓流釣りが好きな人なら最高だよっ。
「ま、そんな感じで合併せずに頑張っているところもあるわけだが、合併は急速に進んでいる。まず、自治体が3232あったのは1999年のことだが、来年の3月には、2231になる。1000ぐらい少なくなる見込みだ」
 すごいですね。
 で、そもそもなんだってこんなに合併話が急遽進んでるんですかね。そろそろ核心部分を伺いたいです。
「なぜか。じつは1999年の4月に合併特例法というのができた。
 どういう法律かというと、合併すると、特例債という債券を発行できる。この借金の3分の2を国が返してくれる。合併した自治体だけ、特例債の発行を認める。それで、特例法だと、合併の締め切りが、実は今年の3月末までだった。だったんだけども、準備が間に合わない自治体があるので、来年の4月1日まで優遇処置を延長することにした。
 このおかげで、妙なことが起きている。今年の3月までに合併しようとしていたところが1年ズラしたりしだした。今年だけで44の自治体が4月1日に誕生するのだが、そのうちの9割以上が、3月末までに合併する予定だったのを1日ずらして4月1日にしたとこばかり。なんでって、いま言ったように、1年分の地方交付税が優遇されるからね」
 最低だなあ、みんな。貰えるものはなんでも貰うつもりか! 誇り高き矢祭町に行って、ちょっと修行してこいよ。



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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。小説は別冊文藝春秋に連載された『ためらいもイエス』のほか、『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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