2005.04.07
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
反国家分裂法と「だって寂しいじゃないの」 その1
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 ま、そんなことはさておいて、意識の上では差はないってボスは言うけど、台湾人は中国人を罵るほど、自分たちと違うと思ってるってことじゃないでしょうか。
「だからさ、それはお年寄りだろ? 日本の教育を受けた世代だよね。李登輝なんかと同じ世代だ。でも、若い人のあいだではどうかな? まあそんなことより聞いてくれよ。反国家分裂法は、たしかにけしからん法律だとわたしも思う。中国は、台湾を自分の領土であると、ずっと言っている。一方、台湾にとってみたら、独立は自分たちの悲願であるし、君もいったとおり陳水扁はじめ、いろんな政治家が台湾の独立を謳っている。しかし最近よく思うんだけど、領土問題というのは、ようするにその領土がないと国にとって不利益になるとか、困るとかということよりも、むしろその国に住む人のナショナリズムとかアイデンティティのほうが大きい」
 ふむ、聞きましょう。
「実際、北方領土をロシアがずっと返さないのは、モスクワで投票をやると、ほぼ全員絶対返さない派だ。日本が領土問題を持ち出すと、プーチンが返さないというのは、返すと言ったら国民の信任を失っちゃうからだ。だけどモスクワの市民だって、あの4島がどこにあるのかすら知らないと思うよ。で、中国にしてみても、たしかに台湾の独立を許さないというのは、社会主義国と資本主義国の違いはあるけれど、中国の人たちからみたら、あれは自分の領土だ。独立だと、なにを勝手言うか、という感じじゃないかね」
 まあそう思ってるんでしょうねえ。どこからどこまで自分の領土か、ちゃんと節度を持って認識しないっていうのは、ロシアといい中国といい、領土のでかい国の習性なんですかね? よーわからんですが、島国住人は。
「ところが中国人にしてみたら、台湾から台商たちがビジネスに来るよな。台湾人のほうが、そりゃ商売うまい。
 わたしはある大学で教えている関係で、北海道に行くことがある。月に2回ほどね。北海道の函館に五稜郭というのがあって、あそこに中国の人たちがいっぱい来ている。この頃ちょっと中国語をかじり始めたので、片言の日本語で道を聞かれたとき中国語で答えたら話が通じた。それでてっきり相手は中国人だと思ったら、台湾人だった。そこで町の人に聞いたら、やってくる中国系の人は、ほとんど台湾人だと。台湾では北海道がブームなんだ。雪と温泉が好きらしい。大陸の人も、たまーに来るけど、お大尽しかこれない。最初、片言で道を聞かれたとき、わたしは中国もなかなか発展したなと思った。そしたら台湾人だったから、やっぱり中国は貧乏なのかなと思いなおした」
 まあ、東南アジアのリゾート地にいる中国系は、だいたい台湾人ですね。よく台湾人と間違われますよ、うちの相方。でもいいんじゃないんですか、台湾人がお金持ちなのは、台湾人が勤勉だからですよ。日本以上に。
「中国人だって頑張るぞ。たとえば僕の会社に、アルバイトの中国人留学生がいるけど、学校で目いっぱい勉強して、朝から晩まで働いている。寝るのが1時ごろ。7時から学校に行って、4時半に終わる。5時半から12時まで居酒屋で立ちっぱなし。それで土日はうちの会社でコピー取りのアルバイトをしているけど、学校のないときには、昼間うどん屋でアルバイトして、夕方から夜中まで居酒屋でアルバイトだ。だけど、1カ月に120時間という制限があるから、それ以上働けない。法律があるから。だからどうしても、日給の高い仕事に行ってしまう。日給の高い仕事というのはだいたい解るよな。でもそっち系はやりたくないから一生懸命頑張っている。時給1000円だとしても、12万にしかならない。六畳一間のアパート借りて、部屋を2つに割って2人で住んで、それで授業料払って。だから毎日100円のカレーとかカップラーメン食べるしかないらしい。要するに中国の実家も貧乏なんだ。それでも学校に行ってる。ちなみに成績表を見たらSが沢山あった。Sと優、良が少しで可はゼロという成績だった。勉強する時間がほとんどないといって嘆いていた。
 それにくらべて、親がかりの日本のバカ者たちときた日にゃー。まあそれはいい。頑張っているということは、一方で、遊ぶことはできないってことだ。だから一方で台湾の人たちを羨ましいと思うと同時に、台湾の人たちはわたしたちを見下しているのではないか、という気持ちもあるようだ」
 ふうん、ボス。もしかして彼女って可愛いんじゃないの?
「おう。若くて背が高くって……もとい、そういう理由で中国の肩を持っているわじゃないっ!」
 うさんくせー、なんかすっごいうさんくせー。
 ということで、うさんくさいボスの話は、さらに次号に続きます。謎めいたタイトルのワケはそのときに!

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