2005.04.14
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
反国家分裂法と「だって寂しいじゃないの」 その2
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 あっ、なんかちょっと見えてきたかも。
 これは、真面目に聞かないといけないかも。
「つまりね、中国というのは、権力闘争の歴史である。まず、毛沢東が否定された。そのあとトウ小平が出てきた。トウ小平は、毛沢東を否定したところから始まった。毛沢東は農民を中心とした社会主義国を作ろうとした。トウ小平は、逆に、工業と市場原理主義を取り入れた。
 トウ小平の指名によって、江沢民が出てきた。そして次は胡錦涛に代わった。中国では権力闘争のとき、かならず運動を利用するという歴史があるのだ。かつて、毛沢東が利用したのは紅衛兵だ。紅衛兵を利用して、政敵をやっつけた」
 えーと、たしか「造反有理」を唱えて、紅衛兵を使って資本主義的な思想を持った共産党内部の人間をやっつけたんですよね。それがたしか文化大革命の始まりで、おかげでいっぱい人が死んで。「ワイルド・スワン」をむかし読んだとき、そんなことを勉強した気がする。あの本、怖かったよなあ。でも、やっつけられた人の代表が、誰だったかは忘れたけど。
「劉少奇だ。それについて触れていると長くなるからいまはやめるけど、そういうふうな歴史を考えてくるとだな、今度のデモも、政敵を追い落とすためのデモかもしれないという可能性はある。わたしも取材途中だからうっかりしたことはいえないが、中国の内部的な崩壊の一里塚の可能性があるのじゃないかというのがわたしの見方だ」
 あー、なるほど。それはたしかにそうかもしれない。
 いわれてみればいまの中国の経済格差って、ソ連が崩壊するまえの、ペレストロイカのあとの状態に似てる気がする。
「そう、そこで大事なのは、この反日運動を、日本国民が、中国はけしからんと捉えるのではなくて、中国政府の内部崩壊の、一要因かもしれないと冷静に見て取ることだ。間違うと、君のように、中国人はけしからんというようなところに落ち着いてしまう。それは危険なんだ。
 中国から留学してきた彼女ですら、いまの政府は酷いという。中国人全体が、情報を得ていない。地方でそういう不満があったらすぐ弾圧されるから、声にならない。でも北京なんかでお金持ちの小僧たちが反日運動なんてことを言うと、すぐオッケーになる。本当の不満は別のところにあるはずなのに。たとえば、法輪功が弾圧されているだろう?」  ああ、あのちょっと宗教っぽいヤツですね? 正確には気功の延長みたいなもんみたいらしいですけど。
「なんでだと思う?」
 チベットを弾圧してるとこみると、共産党って宗教が嫌いなのかなって程度に思ってましたが。
「それよりも重要なのは、法輪功のメンバーというのは、中国の公営企業をリストラされた人たちがものすごく多いってことだ。彼らは、中国共産党の内部をよく知っている。そこでものすごく反発心を持っている」
 そうだったのか! だから弾圧。
「けれど中国では報道管制をして、そういう報道をしていない。中語の政府のなかでなにかが起きている可能性はある。ここは冷静に一歩引いてみたほうがいい。もちろん、中国政府に対して、きちっと文句を言うべくはいいなさい。中国に行っている企業だとか、大使館だとかを守りなさいということは、きちっと言わなくちゃいかん。いまね、中国の政府が不安に思っているのは、あのデモではなくて、民衆が本当は中国共産党の腐敗を追及するデモをしたいんだということが国民全体に知れ渡ることだ。そうなったら、中国は大変なことになる」
 ここで初めて、寒気がする。
 たしかにわたしたちは、歴史の節目にいて、あるいは中国の大崩壊を目の当たりにしようとしているのかもしれない。
 いま、反政府運動が激化したらどうだ? 天安門のころどころではないパワーが潜んでいる。不満が渦巻く、ものすごい力だ。
「中国政府が望んでいるのは、民衆の力が政府攻撃に向かないこと。だから、いまの中国が悪いのは日本が反省しないからだ、といっている。
 ここはだな、日本は冷静にならなくちゃいけない。ここで日本国民が中国人はけしからんとやったら、むこうの思う壺で、それ見ろと、反省もしないで中国人を悪いといってるぞと。中国共産党を勢いづけてしまうかもしれない。だから我々は政府に対してのみ攻撃すべきであって、人民に対してするべきではない。日本は、方向が違うよ、格差を生んだのは我々ではなくて中国政府なんだよ、とわからせてやらなくちゃいけない。ま、そう簡単にはいかないけどね」
 わかりました。じゃあ、とりあえずわたしのするべきことは……中国人サイトを荒らしに行かない、ですかね。
「まあ……そんなとこだろうな」
 わかりました、わたしは誓います。
 中国人サイトに、ウ×コのアスキーアートは貼りません!
 でも……ちょっとだけなら貼っていい? 1回だけ。
「駄目。とにかく大人しくしてなさい。だいたい、仮にも女性がウ×コ、ウ×コって……わたしは悲しくなってきたよ! 大和撫子はどこへ行ったんだ」
 それがボスを中国美人に走らせた理由なのか? だったらごめんなさーい。
 ってとこで、「だって寂しいじゃないの」の謎解きは、さらに次週に持ち越し。

 ところで、この場を借りて少々新刊書の宣伝を。
『60年代「燃える東京」を歩く』(JTBパブリッシング)という本。
「60年安保のデモのルート」「三億円事件犯人の逃走ルート」「東京オリンピックのマラソンコース」など全16コースを、わたしを含めた何人かで実際に歩いて取材した。
 ボス、なつかしい68年の国際反戦デーのデモ隊コースもありますぜ。
「おれはそんなもの、行ってないぞ!」

つづく

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