2005.04.21
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
反国家分裂法と「だって寂しいじゃないの」 その3
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 これから初めて台湾に行く人には、台北の市内にある桶屋さんに行くのをお勧めしたい。
 台湾にはいろいろいいとこがあるんだけど、ここもそのひとつである。なんと、日本式の洗い桶からヒノキの風呂桶まで、手で作っている職人さんが残っているんである。ちなみに店の名前は「林田桶店」っていう。台湾通には知られた店らしい。コーディネーターさんが案内してくれてわたしは知った。ここには日本の、失われた技術があるのだ。
 ただし、覚悟してほしい。
 職人のおじいさんは台湾人だが、とっても日本語が達者で、かつ、日本人が行くとものすごく喜ぶ。
 このため、小1時間は、彼と話すことになるだろう。
 いい人なので話していてまったく苦痛ではないが、旅行の日程が厳しい人はそのへん考えたほうがいいかもしれない。あと、買っても買わなくても、日本人が行くとすごく喜ぶけど、できれば桶買ってやってちょーだい。わたしはさぁ、買おうと思ったんだけど、どう頑張っても持ち帰れそうになくて断念したんですよ。スマン、ごめん、おじいさん!
 台湾は、このように日本が大好きな人で溢れている。
 わたしは犬を見ると無条件で、
「わーい、ワンコちゃん、ワンコちゃん、かわいいねー」
と反応してしまうが、台湾人の日本人に対する反応というのはこれと似ている。日本人だと明かしただけで、
「わーい、日本人だ、日本人だ、うれしいなー」
って感じである。それなりに海外旅行をしたけど、こんな国は他になかった。どこだって、 「日本人か? ほら金を出せ」
って感じか、そんでなければ、
「ジャップ、消えろ」
って感じだった。
 台湾、最高。ただし公共工事のやりすぎで国がなんとなく埃っぽいが。あと、道が広すぎ。名古屋育ちの編集者が感動していってたよ。
「台湾は素晴らしい、道が広くて名古屋のようだ!」
 そのわりには横断歩道が少ないから渡るときは命がけだが。
 あと、台湾は、飯うまい。
 なに食ってもうまいけど、お勧めしたいのは「客家」の村である。
 台湾の山のなかに、「客家」と呼ばれる人たちの村がある。これは200年ぐらいの大昔、中国で戦乱があったときに台湾に逃げてきた人たちが作った、日本でいえば平家の落人の村みたいなもんである。耕作に適した土地はほとんど現地民が住んでいるから、耕作に適さない、山の中に村を作った。彼らは「台湾のユダヤ人」ともいわれているそうで、勤勉でかつ倹約家であるのが特徴だそうだ。少量のおかずでたくさんご飯を食べるために味付けは濃い目なんだけど、この料理がじつにうまい。ご飯はいくら食べてもよくて、勝手に自分で巨大な炊飯器から盛る。芋ごはんである。わたしなどは、ワラビのような山菜の炒め物に感動したあまり、ご飯を2杯も食べた。
 ただ、そのあと、外便所にむかったら、便所のまわりにさっき食べたワラビみたいのが大量に繁殖してて、そうか、わたしはこれを食ったのかと落ち込んだ。さすが台湾のユダヤ人だと感心した。
 台湾は素晴らしい。
 わたしは台湾大好きだ。
 てなわけで親台湾派のわたしと、美人にたぶらからされたのか「造反有理」で戦ったことがあるのかないのか知らないけど、なぜか親中国派のボスとの戦いに、今日こそは決着をつけ、3週間ごしの「だって寂しいじゃないの」の謎を、いよいよ明かします。




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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。小説は別冊文藝春秋に連載された『ためらいもイエス』のほか、『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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