2005.04.21
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
反国家分裂法と「だって寂しいじゃないの」 その3
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 まあ聞いてくださいよ、わたしはそんな理由じゃ絶対納得しませんけどね、ボスこと、『日本の論点』の編集長の渡辺さんは、中国の肩をもってこういうんですよ。
「わたしは留学生の彼女に、なんで台湾が独立するのが嫌なんだと尋ねたことがある。わたしだって言ったんだよ、台湾だって独立する権利があるのだ、中国が武力で押さえつけるのは酷いと。すると彼女はこういう。いやあれは中国人の領土なのだから、あなたたちに言われる筋合いはないと」
 台湾人はそうは思っていませんよ! 
 中国人は勝手に脳内で領土と決めつけるな。その美人さん、ちょいと台湾の民進党の選挙対策本部まで来い。日本統治時代を知る、怖い台湾人のおばあさんに説教してもらえ。 「まあいいから聞きなさいよ。で、なんで中国の人は、チベット、内モンゴルも含めて独立されるのが嫌なのだと尋ねたら、こういう言うんだよ。『だってみんながそうやって独立していったら寂しいじゃない』と」
 なんだ、その訳のわからない理由は。だって寂しいじゃないの一言で、チベットを弾圧していいのか? 核廃棄物の廃棄場まで作ったっていうじゃないか、チベットに。だって寂しいんだもんで、核で汚染していいっていうのかよ。民族が消滅すんぞ? わたしは許さん。
「まあチベットの件は置いてだな、台湾と中国に話を絞ろう。中国人にしてみれば、台湾も同じ中国なのよ」
 事実はさておいて、感情としてそうだということですね。
「そう。だから前に言ったように、ナショナリズムという問題があって、中国の人たちはあれは自分の領土だと思っているんだ。ところが中国人にしてみたら、台湾から台商がビジネスに来るだろ、すると台湾人が商売うまいわけ。おまけにアメリカから武器の援助も受けているし。中国人からしてみたら、同じ中国なのに、台湾だけ経済的に発展していってという嫉妬がある。我々日本人は台湾の独立をというけれど、彼らの気持ちとしてみれば、わからないでもないということがいいたい。そしてわたしは、そんなに一生懸命勉強して貧乏に耐えながら日本に来てる中国の子を見てるとちょっと切なくて、みんな独立しちゃうと寂しいのというと、もっともだなと思っちゃう。それにひきかえ、ろくに勉強もしない日本の馬鹿者どもを見ているとムカッとくる。編集長は複雑である」
 複雑である、ってねえ。
 まあ、ナショナリズムの問題については、そういうのはあるのかなって思わないでもないっていうか、たしかにわたしたちは、中国と台湾の関係については部外者だからなんともいえんですなあ。でもなあ、台湾の人からしたら、
「だって寂しいじゃないの」
なんて妙な理由で反国家分裂法を出されたらたまらんのじゃないかって気はしないでもないんだが。
 まあいいや。台湾と中国のことは、双方に任せておきましょう。いまの我々の本当の問題は、中国の反日運動ですね。自分の頭のうえのハエをどうにもできんのに、他人の国の話をしている暇は、ないわ。
「そ。で、肝心なのは、この反日運動が、中国内部の経済格差による不満のはけ口になってるってことだ。中国は世界中から資本を受け入れて「世界の工場」と呼ばれることによって経済発展したが、じっさいは安い労働力の供給場所として重宝がられてきたわけだ。日系企業に現地採用されても、日本人社員より賃金は安いし出世もできない。いっぽうで賄賂を使える金持ちの子弟はアメリカなんかに留学して金持ちの再生産だ。中国政府は靖国とか尖閣列島とか国連安保理入りとかを持ち出して日本を攻撃しているが、じっさいはそれによって政府に対する民衆の反発のガス抜きをしている。政府はそれをまた日本に対する圧力に使っている。したたかだぞ、あの政府は。台湾に対してだって、表向き武器をちらつかせながら、陰では国民党とうまくやるべく画策してるんだから。いずれにしろ、国と個人は違うってことは理解しておいてほしい。編集長からの講義は、以上だ」
 はあい。わかりました。中国人のサイトに田代砲とか、やりませんとも。
「なんだその田代砲っていうのは。ネットのことは詳しくないが、やらないっていうあたりからしてやりそうで不安になるな。ホント、やるなよ!」
 わかりましたよ、やりませんよと答えておいて、今週の時事音痴はおしまい。さて、講義も終わったし、ネットにつなぐかとするか。なにをするかは、秘密だけどね。それじゃ皆さん、また来週!

http://www.rurubu.com/PubList/PubList.asp?Menu=1580/803160

つづく

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