2005.05.12
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
車内メークvs.車内イカ燻
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 諸事情で、たまに常磐線に乗ることがある。
 乗ったことのない人のために記しておくが、上野発の常磐線は、南千住を過ぎると千葉の端っこのほうを通って、茨城に行く。で、すごいのは帰宅ラッシュ時の常磐線である。くたびれた感じのおっさんが乗車してくんだけど、たいてい、手にビールとイカの燻製を持っていて、扉が開くとものすごいダッシュで席を確保し、そんで座るなり靴を脱ぎ、ビールと珍味で一杯やりだす。
 車内に酒とイカの臭いが漂う。おまけに足の臭いおっさんだと、足の臭いまで漂って、なんだかとんでもない異臭となる。
 そのたびに叫びそうになる。

 どうしてそこまでくつろげる。
 ここは貴様の自宅か!

 ボスこと『日本の論点』の編集長は、最近の女性の「車内メーク」を嘆いて言った。
「最近の若い女性は、公の場とプライベートな場を区別するということをしなくなった。パブリックスペースとパーソナルスペースの振舞い方は違って当然。家のなかではパジャマやジャージでもいいが、外出するときは着替える。それが社会のルールってものだと思うけどな。つまり化粧というものは、本来プライベートな場でするべきものだと思う。世間の目を気にしなくていいんだ、個人の自由だ、という風潮が車内の化粧を平気にさせるんだろうな。世間に自分がどう映るかを考えて行動するということは、自分を律することにもなるんだがね。ちょっとした居住まいや立ち居振る舞いに、そうした品というものが表れる、とわたしは思うぞ」
 正論かもしれない。しかし、わたしは言いたい。車内メークを嘆くまえに、ボスには1カ月、毎日夕方の常磐線に乗っていただきたいものだ。そして常磐線のイカ薫オヤジに、
「ここは君の家じゃない。家に帰ってから酒盛りしなさい」
と説教して歩いたら、ボスの主張を認めないでもない。だいたいあの人たちね、ボスと同じぐらいの年齢だと思いますよ、みた感じ。女をあーだこうだ言うまえに、男こそ身じまいをちゃんとしてくださいよ。だいたいねえ、
「男は外に出たら七人の敵がいる」
とか格好つけているくせに、常磐線のなかでネクタイゆるめて酒盛りすんな、靴脱ぐな!




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山崎マキコ自画像
山崎マキコ
1967年福島県生まれ。明治大学在学中、『健康ソフトハウス物語』でライターデビュー。パソコン雑誌を中心に活躍する。小説は別冊文藝春秋に連載された『ためらいもイエス』のほか、『マリモ』『さよなら、スナフキン』『声だけが耳に残る』。笑いと涙を誘うマキコ節には誰もがやみつきになる。『日本の論点』創刊時、「パソコンのプロ」として索引の作成を担当していた。その当時の編集部の様子はエッセイ集『恋愛音痴』に活写されている。
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