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ここで、「ああ、そうなのか」と、自分の個人情報保護に対する意識と、かつての「良き日本」であったころの感覚の差をしみじみと感じ入る。
たぶん、ネットに一度ハマった人間ならだれしも、自分の個人情報の流出で、恐ろしい目にあったことは一度や二度あるんじゃないかと思う。最近はだいぶネットにも一般の人間が流れ込んできて、高確率でヤバい人間にぶつかる頻度は相対的に減った。とはいえ、である。自分がネットにハマっている人間のひとりなので「ネットって怖いところ」という印象を助長するような発言は控えたいが、やはり、そういうわたしでも思うのだ、
「ネットには、ヤバいヤツが手持ち無沙汰にウロウロしてる」
と。かつて、ストーカーの被害にあうのは、メディアに露出して人々の妄想をかきたてる一部の人間であったが、それが現在では、だれしもが、妄想の対象になりうるのだ。名古屋の事件は、「幼女」という妄想の餌食になった少女がいたという悲劇である。そういう時代の空気にひりひりと晒されてきた世代と、古き良き日本に生きてきた人たちの温度差を感じずにはいられない。
「そこで、この事件が起きてから、役所によっては対応を変えたのだ。名古屋市なんかでは、それまで閲覧するのに本人確認すら必要なかった」
げげ、そんなに簡単に閲覧できていたのか。お役所の馬鹿ァ!
「だけど今年の4月から運転免許証とか、身分証明の提示を求めるようになった。自治体によっては、アンケートやダイレクトメールの送付が目的の場合は、書類を提出させたりする。だいたい、本人確認なしで住民票を交付できたら、「なりすまし」犯罪を防げない。他人の住民票を勝手に移動させることもできる。そういう住民票が、消費者金融の借金に使われたり、振り込め詐欺用の銀行口座の開設に使われたりするのだ」
ほらね、住民基本台帳の公開なんていいことまったくないじゃないですか。犯罪の温床ですよ。だいたいねえ、普通の人が住民基本台帳を閲覧する必要がどこにありますか? なんもないじゃないですか。わたしは生まれてから一度も、自分の住民票の交付はともかく、閲覧なんてしたことないですよ。だって、普通に生きていくうえで、そんなことする必要、まったく生じないもの。ねえ、皆さん、そうでしょう?
「だから、もし本当に犯罪を防ぐつもりなら、住民基本台帳法を改正して、交付や閲覧に規制を加える必要がある。原則公開を、原則非公開にすべきなのだ」
え、ちょっと待った。まだ「原則非公開」になってないんですか?
「なってない。というのも、それには反対派がいるからだ」
えええ、そうなの? てっきり個人情報保護法が施行されたら、このへんの間抜けな法律も改定されたんだと思ってた。
どこの馬鹿が反対してんですかあ、ボス。ちょっと行って、殴ってきてやりますよ!
「だれって、俺たちだ、俺たち」
え、『日本の論点』?
「マスコミだよ」
えええ、なんで? どうしてそんな反対をするんですか。
「なぜなら、住民票の閲覧や、企業の登記簿を閲覧するのは、取材するものにとっては大きな武器だからだ。田中金脈事件ってあったよね。田中金脈のレポートするときに、関連企業の登記簿が必要になってくる。これはデータとして重要な手がかりになる。個人の住民票もそうだ。いまは戸籍謄本は閲覧できないが、30年ぐらい前までは戸籍も閲覧制度があって公開されていた。人間、都合の悪いことは隠すもんだ。それを暴くのは、ジャーナリストの習性、もとい使命だからな。ま、しかし、暴かれるほうの人権からすれば問題がある。スキャンダル報道で公人と私人の境目が論争になるゆえんだ。だから、これは難しい問題をはらんでいるのだ」
はらんでいるのだっていうけど、取材と、一般の人に及ぶ被害と、どっちが大事なんですか? わたしは一般だと思うけど、違うのか?
わたしは将来、夜逃げをしやすくなるためにも、住民票の公開に、真っ向から反対していきたいと思います。マスコミ、知ったことじゃないですよ。大きな悪より身近な犯罪の撲滅が大切だ。と思うんだけど、違うのかなあ?
皆様の忌憚なきご意見を求む。
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