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「それよりもだな、わたしは女性に尋ねたい。このオッサンはフツーのハゲオヤジだったそうじゃないか! しかも56歳。19億持ってれば外見はどうでもいいのかね?」
うーん、ちょっと待ってください。いま考えます。19億全額貰えるわけじゃなくて、17人で分散したうえで15年の月日がかかっているわけだから……って、なんでわたしが月々のお手当てを試算してんだ。
「あっ、いまネットで調べたら、もう少し記事の続きがあった。『月100万から300万のお手当て』だって。どうかね、君は?」
あれ、19億も月々にならすと、思いのほか手取りが少ないんですね。わたしならどうかなあ、そうですね、胸に手を当てて考えて……
「そんなんじゃあ、お断りです」
「でも実際、17人もの女性がこのオヤジと交際してたわけだぞ?」
ボスに尋ねられて真剣に考えてみた。
あのですね、以前、郷ひろみの奥さんだった人が「愛される理由」って本を出しましたけど、女が望んでいるのは、いまも昔も「愛されること」なんですよ。最近では「セレブ」っていうのが流行ってますけど、あれ、も姿形を変えた「愛される理由」なんです。
「お金をいっぱいもらうのが愛されているという証かね?」
うーん、似ているようでいて、ちょっと違いますね。
わたしの男性観が偏っているのかもしれないけど、男ってわりと「等価交換」なんです。いえ、男女分け隔てなく、人間関係の基本というのは「等価交換」なんじゃないかと。
たとえばですね、付き合い始めにお金をばんばん使ってくれる男というのは、
「その代わり、面倒なくやり捨てにしたい」
という「等価交換」があったり、お金をたくさん稼いできて専業主婦にしてくれる夫というのは、
「その代わり、全面的に自分の面倒を見て欲しい」
だの、
「いつも美しく、自分がつれて歩いていて恥ずかしくないだけの女であれ」
だの、あるいはものすごい嫉妬深くて独占欲が強いだの、なんらかの「等価交換」が成り立たないと、男はなかなか納得しない。女のほうからみれば、一方的にいい思いができる相手なんて、まずいないということです。
なので、女の究極の願望は「愛されたい」なんです。
男の側に「愛」があれば、女にとって不快な条件をつきつけられる「等価交換」が成り立たなくても、相手は納得する。自分がそばに居さえすればいいだけだから。だからかつては「愛される理由」であり、いまは「セレブ」、すなわち夫のお金を自由に、しかもふんだんに使え、なおかつ自由が保障された(たいてい、これが「等価交換」の対象として犠牲にされる)存在が、女の理想とされるんです。
だからこれが「セレブ」だと持ち上げられている理想像には、
「夫の稼ぎはたくさんあるし、専業主婦をしていられるけど、寝たきりの姑の介護を一人で任されて気が狂いそう」
という人は含まれない。いくらお金があろうとも。そういう人は「等価交換」をしているわけだから。
で、こうやって考えていてふと思ったんですが、このオヤジが17人の愛人を獲得できたのは、「等価交換」を迫らなかったからじゃないのかと。だってそうですよ、そもそも自分で苦労して稼いだ金じゃないもの。あげたからって惜しくなるわけもない。女としては、このオヤジが等価交換を要求してこないから、「愛されている」気分になるわけです。ただの資産家だったら、たとえ女に19億の金を使ったとしても、つねに費用対効果を考えるから、17人を同時進行させるというのは、逆に難しいんじゃないかと。
「つまり、どういうことだね」
そうですねえ、複数の女性と、トラブルなく快適な交際を続けるのは、横領した金をふんだんに気前よく使うのが双方にとってベストである……あ、横領のすすめみたいになっちゃった。
そんなところで、それでは皆様、また来週。
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