2005.12.08
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
耐震強度偽装問題と庶民感情 その1
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「まず、1981年に建築基準法が改正されて、それまでより建築基準が厳しくなったんだな。これは78年の宮城県沖地震の教訓からできたものだ。それまでは震度5程度でも倒壊しない、という基準だったのを、震度7程度まで引き上げた」
 憶えてます。1978年、わたしは忘れもしない小学校5年生で、隣の福島だったんでごっつい揺れまして、ちょうどそのとき音楽室でアコーディオンを弾いていたんですが、
「地震がきたら机の下に隠れろ」
という日ごろの教えを実践してアコーディオンごと机の下に隠れたら、今度は教師から、
「このぐらいの揺れでパニックになる山崎は馬鹿」
とあざ笑われまして。いまでもあの教師を恨んでます!
「君の個人的な恨みはもういいよ。で、10階建ての建物なら、鉄筋量が2割程度増えることになった」
 そうそう。それで検査がやたらと厳しくなって、とくに公団の建物のチェックの厳重さといったら強烈だったらしいですね。下請けである親が泣いてました。あのときわたしは、
「81年以降の公団の建物はとくに安心」
というのを学んでました。
「ということは、今回の偽造で問題になったようなマンションは、81年以前のものにはごろごろあるというわけだ。国交省の調べによれば、81年以前の建築物で、新基準を満たさない物件は、約1050万戸(一戸建てを含む)、そのうち150万戸がマンションだとみられている。阪神大震災のときに旧建設省が調査したところによれば、旧基準の建物の29%が倒壊していたという」
 基準法って大事ですねえ。国民の命を守るためには、基準は安易に緩めちゃいけないってことですね。
「そうだ。ところが、それから1995年になると、阪神大震災が起きるでしょ? 住宅が潰れちゃったもんだから、建築ラッシュがあった。国に対しても、工期を短くして、住宅を早く建てろという要求があったわけよ。以降、建築ラッシュが続くのだけど、98年に、今度、建築基準法が変わる。どうして変わるかというと、いままでの建築基準法だと、大変うるさくて、アメリカから買ってきた資材とか工法が使えなかった。これを使えるようにしちゃったんだな。それが1998年。で、1999年から、新しい建築基準法が施行される。それまで、建築基準法どおりに家ができているかをチェックする建築確認は地方自治体の仕事だったのだけど、民間の参入を許したのだ。なぜそんなことをしたかというと、建築ラッシュに対応できなかったから。そうした検査機関が、100余りあるのだ(同じ民間機関でも企業の場合と、財団法人などの場合とあるが)。そのなかのひとつがイーホームズだったり、日本ERIだったりするわけ。だから、その時点では、建築基準法が変わったことにも問題がある」
 あ、問題の本筋が見えてきた! つまり、1999年から施行された建築基準法というのは、阪神大震災だけでなく、ボスがさっきいってたアレ、80年代から続くアメリカの『規制緩和』要求と、大きな関係があるんだ!
「そう、そのとおり。アメリカが言ってきたわけよ、日本の規制が強すぎるから、緩くしなさいと。耐震の基準は少し緩めて、建築資材を買えと」
 な、なんだってー! 牛肉どころか建材まで。しかもその要求を、日本が飲んじゃったのか!
「そう。だからこれは、規制緩和という大きな枠のなかの問題なんだよ。日本の構造というのは、社会的規制がすごく強くて、それで成り立っていた。なのに政府は、安全という一番大事な部分を民間に任せちゃったのだ。
 しかし、ここで問題がある。もとから民間でやってきたアメリカでは、どうして耐震偽造みたいな問題が起きていないのか。それはアメリカ人が、昔から自己責任でやってきたからだ。アメリカ人が嫌いなのは税金、もうひとつは官僚。自分たちが全部やるから、国は関与しなくていいという。自分たちで街をつくり、保安官も自分たちで雇って、裁判も自分たちでやる。だからいまだに州によって法律が違う。そういう国だから、民間が民間を監視する仕組みができている。ところが日本は、なんでもお上が決めてきた。優秀な人材が官僚になり、国民は官僚の優秀さを信じて、お上のいうことを聞いてきたんだ。それがいきなり、これからは民間でどうぞっていわれても、民間の中におのれを規制する仕組みがないから、野放図になるだけなんだよ。日本とアメリカ、そこが根本的に違うわけ。それがこの問題のポイントなのだ」
 前回の「格差社会」でも、アメリカ型社会に変化する日本に対応できない人々の話だったけれど、ここでまたもや、アメリカ型の規制緩和を押し付けられてうまくいかない「日本」の話に戻ってきたのだった。
 どうなる日本。
 日本型社会の再評価が、必要な時期に来ているような気がしてならない。
 次週、『構造改革』という大きな流れの話は個人の力じゃどうにもならんのでとりあえずここまでにして、そんな状況のなかで我々庶民がいかにして自分の身を自力で守って、正しいマンション購入ができるのか? そんな話に移っていきたいと思う。

つづく
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