2006.01.12
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
耐震強度偽装問題と庶民感情 その2
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 ちなみにボスの証言による、住宅金融公庫の検査というのがどういうものかというと、
「わたしの家は、住宅金融公庫から借金してツーバイフォーで建てたんだけど、住宅金融公庫の検査官が来るんだよね。設計通りにやってるかどうか見に来る。『やってなかったら、違反部分をのこぎりで切ってっちゃう』って建築屋が言ってた」
というぐらい、激しい。わたしも親が建築関係の仕事をしていて、公庫の検査官がどえらく厳しいという話は聞いているから、ひとつの基準にはなると思う。
 それでは最後に、ボスの意見を聞いてみよう。
「破格に安い物件は、やっぱり注意したほうがいいね。ただ、売り主がマンションを安く売れる理由はいろいろあって、土地が安く手に入ったという場合もあれば、建物の値段を低く抑えた場合もある。素人にはその辺の事情はよくわからない。しかし、周辺環境にとりたてて不利な点がない、たとえば後ろが崖だったり、日当たりが悪かったり、といった欠点がないのに、相場にくらべて安い場合は、建物のコストを抑えている場合が多いと考えていい。とりわけ、表に見える部分にだけお金をかけてある物件、たとえば表通りに面した外壁だけタイルを使って、裏のほうは使ってなかったり、ロビーだけ大理石を使ってあるような物件は、少々注意が必要だろうね」
 そうですね。建築の怖いところって、中身がどうあれ、外観だけは同じく作れるようなところにあると思うんですよ。こないだボスに、家のサッシをつけるのにブタ小屋用のをつけた話をしましたけど、畜舎用のサッシを使っても、パッと見は人間様用とそうは変わらない雰囲気にはできてしまう。建築のコストなんて、すでに限界まで押さえている時代にとうに入っているのですから、それでもそのマンションが相場より破格に安いとしたら、やっぱりなんらかの不安材料はあると考えてよさそうですよね。
「それと、つきなみなようだが、名の知られていない会社の物件よりは、大手のもののほうが安心だといえる。不動産に不備があった場合、売り主は無過失責任(瑕疵担保責任)を負う。つまり、たとえ売り主に過失がなくても、買った人に損害が生じた場合は、売り主が補償をしなければならない。だから、高額の補償が生じると倒産してしまうような売り主からは、買わないほうが安全だということだ。そもそも売り手が大きな会社で、十分な補償を支払う能力があれば、公的資金を導入するといった議論にならずに済んだだろうしね」
 三菱自動車にリコール問題が発生しても、三菱は潰れませんでした、みたいなもんですね。のれんに傷がついたら大変だ、と考えている名の知れた会社のほうが、やっぱりなにかと安心ですね。
 なんだかんだいって、庶民にとって、家は一生のお買い物。当たるも八卦当たらぬも八卦の、博打であってはやっぱりまずい。マンションを買う際にはできる限り調べる努力をすると同時に、アメリカの外圧に負けず、建築基準法を1998年以前のように厳しいものにせよ、と声を大にして言いたい。そして、姉歯設計士はズラを脱いで謝れ! と叫んだところで、今週の時事音痴を終わりとする。

 次回は、わたしが、心のズラを脱いで謝ります。乞うご期待! なのか?


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