2006.01.26
山崎マキコの時事音痴 文藝春秋編 日本の論点
第 回
これがリアル沖縄移住だ! 田舎暮らしを考える
その1
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 たしかに、沖縄はいいところだ。
 温暖だし、手足の冷えに悩まされている父にはいいだろう。
 しかも、物価は安い。わたしの感覚だと、本土の三分の二ぐらいのように感じる。当人がどうしても暮らしたいというなら、それもたしかに、いいかもわからん。
 しかしわたしは一抹の不安を感じた。
 それは、食事である。
 沖縄と本土では、まったくといっていいほど、食文化が異なるのである。リピーターだからなのか、リピーターでさえなのか、そのへんよくわからないが、の率直な感想を言えば、沖縄に5日もいて、パーラーで弁当を買えば(注・沖縄でパーラーというのはなぜか弁当屋のことである。よくみかける風景に、夫婦でパーラーを営んでいて、旦那さんが大勢の子供の子守をしていて、それを尻目に奥さんがしゃかりきになって弁当を売ってる、というのがある)、なぜかかならず、
「ソーキそば」
が、当然のようについてくるという、あの食文化の違いに、だんだんメゲてくるのである。
 テビチ(豚足の煮込み)、ミミガー(豚の耳のスライス)、ナーベラーンブシー(へちまの煮込みみたいなもん)。本土じゃ食べないものばかり。
 なんでもかんでもゴーヤが混じる炒め物。もちろんスパム(缶詰で、肉の代用品。魚肉ソーセージとコンビーフの中間のような代物。アメリカの信託統治時代に爆発的に流行したらしい。スパムメールのスパムはこれが語源)は定番だ。
 青やピンクやまだら模様の熱帯魚がならぶマチグァー(市場)。
 蟹といったらヤシ蟹だ。身がほとんどない。毛蟹なんて、マチグァーには並べられていない。松葉もない。タラバもない。(なぜヤシ蟹はあんなにうまくないのだろうと思って調べたら、なんと、コヤツ、陸上生活をしていた。アダンの実といって、一見パイナップルの親戚みたいに見えるんだけど食べられない実のなる木が、よく沖縄には茂っているのだが、これを食べているのがヤシ蟹。……海の中にはぜんぜんいなかったのか、ヤシ蟹よ)。
 正直に言おう。魚介類、とくに蟹! 亜熱帯より圧倒的に温帯、ないしは亜寒帯がうまい! ほかのものはまあ、好き好きがあるだろうから強くはいわない。けれど、これだけは心から言える。熱帯魚は、うまくない! 
 最初のうちは、ものめずらしさから食も進む。しかし、それは数日で、連続して食べていると、なんとなく舌が疲れて、
「あ、喜多方ラーメン発見。あそこでラーメンでも食わない?」
になってくる。
「わ、わたしはやっぱりウチナンチュー(沖縄の島の人。本土人がヤマトンチュー)にはなれない!」
と、切実に思う瞬間である。
 不安になったわたしは、移住するまえに父を沖縄に連れて行った。数日間、ウチナンチューの食べるものばかりを食べさせて、耐えられるかどうかを試したのである。しかし父は目を輝かせて、
「俺はウチナンチューになれる!」
と断言した。そして沖縄の青い海、白い砂、すべてに感動して、
「俺は絶対ウチナンチューになるぞー」
と、移住してしまったのである。3年前の秋のことであった。移住先は那覇から車で20分ほど離れた、糸満市。サトウキビ畑のそば、海の見える、3LDKの白いマンションだ。家賃は6万。2年住んだら、5000円家賃をマケてくれるという。近くにゃ山羊が飼われてた。
 さてそんな父がどうなったのか。ほとんどの人は、うすうすわかると思うが、次回に続くのである。

つづく


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