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さて先週の懺悔の続き。バスは秋晴れのなか、一路、樹海を目指した。
ちなみにこのツアー、たしか4000円か5000円ぐらいだったと思うんだけど、参加費が必要だった。つまりこのバスに乗っている人たちは、富士山のごみを拾うのに、わざわざ自腹を切っているんである。
どんな人たちがこのバスに乗っているのだろう。
ちらちらとあたりを見渡してみるが、とっても、善良そうな人たちだ。
そりゃそうだろう。
対するわたしはといえば、編集部が経費で参加費を落としてくれているからビタ一文払ってない。しかもそれを原稿にして稼ごうと思ってるわけだ。たしかにわたしは、樹海を歩きたいとはいった。けれど、樹海のごみを拾おうなんてまったく思ってなかった。皆さん、なにが面白くてわざわざごみを拾いに、都内から参加費かけて富士山の裾野まで? 全然わからん。わたしの目的は例の“お宝”発見だけである。
ちなみに世代としては、いわゆる「団塊の世代」と呼ばれる人たちがいちばんのボリュームゾーンであった。これを証明する出来事がひとつある。
この樹海清掃の翌々週に、わたしは新宿にある「うたごえ喫茶」なるものに、別件の取材で行ったのだ。そのとき、同行した編集者が、
「かつて『安保反対』っていって頑張っていた人たちは、いまは何をしているのだろう。こうしていまも“うたごえ喫茶”に集まっている人たちは、この店を出たあとは、いったい何に、情熱を注いでいるんだろうねえ」
と、物思いにふけるような表情でつぶやいた。そのときわたしはとてもふてくされた気分で、
「それはですね、樹海でごみ拾ってるんですよ、樹海でごみ。嬉々としてごみ拾いしてんですよ」
と答えた。するとどうしたことだろう。わたしたちのヒソヒソ話はまったく聞こえていなかったはずなのに、その“うたごえ喫茶(たしか、『ともしび』って店だった)”の司会を務めている女性がマイクにむかって、いきなりこう喋りだしたんである。
「わたくし、先々週、富士山を世界遺産とするべく、樹海でごみを拾う催しに参加いたしてまいりました。樹海は、とてもすがすがしく……」
ひいっ、あのとき同じバスに乗り合わせていた人が、“うたごえ喫茶”で司会を! わたしはうつむいて、目をあわせないようにしたのはいうまでもない。まったくの思いつきでいったことが、当たってしまった。編集者は、
「すごいじゃないか、君! どうしてわかったんだ」
と驚嘆してくれたが、しかしなんとバツの悪い。すいません、不心得者はわたしのほうなのです。わかってます。
というわけで、参加者はわりと年齢層が高かったのだが、なかには若者もいた。彼らが何者であるか、ひと目でわかった。というのも、
「東京農大」
のTシャツを着用していたからである。
わたしはこの大学と明治の農学部に合格して、どっちにしようか迷った末に、明治にしたのだった。東農大に行くと名物“大根踊り(大根を手に握り締めて足を交互に上げる踊り)”が出来るのは面白そうだけど、あんまり“大根踊り”ばっかりやってると、わざわざ首都圏の大学に受かったのにお洒落がどんどん遠ざかってしまう――そう考える軟派な学生が明治へ。いや俺は明治なんて半端な学校にはいかず、とことん農業を追究するぜ――そう志す硬派な学生は東農大へ。両校を併願して両方に合格する学生はとても多いのだが、だいたいこういう気質の違いで最終的な進学先が決まるように思う。
しかしどちらの大学に進もうと、そもそも「農学部」なんてとこに入学した人間の気質は、本質的な部分ではそう大差ない。つまり、
「俺、渋谷に行くより樹海に行くほうが、なんか落ち着く」
とまあ、そんなところである。
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