「うぅ〜ん、二つで十分ですよ〜……い〜や、ニコニコで四つじゃなきゃ駄目だね〜」
ベットの中で、妙齢の女性がブツブツ言いながら身をよじった。
まった、ワケのわからん寝言を……
ともかく僕は、上掛けの端をひっつかみ、容赦なくそれを引き剥がした。
手加減すると、上掛けを体に巻き付けて防御を固めてしまうから、一気にやるのが肝心。
ホワイトシャツ一枚の女性が、ベットに縮こまっている。
下着はちゃんとつけてるあたりが、この人なりの配慮……なんだと思う。
……と一瞬、間をおいたのがマズかった。
教授は足の指でベットからシーツを引き抜くと、それを体に巻きつけ、防御を固める。
最悪の展開。
この状態になると、教授を起こすのは至難のワザだ。
昼すぎまでは……いや、下手をすると夕方まで起きてこない。
そうなると僕とシルバーは、朝食がおあずけになってしまう。
当然ながら、勝手に食べてしまうという選択肢は存在するが、それを教授は許さなかった。
食事は全員揃って食べるのが当然!……と、そこだけは正論をふりかざし、でもって自分はなかなか起きない。
結果、僕は毎朝、是が非でも教授を叩き起こさなくてはならないのだ。
ゆっさ、ゆっさ、ゆっさ。
「教授!エリーヌ=ヒースロウ教授!起きてください!起きろ!お〜き〜ろぉ〜!!」
最早こうなると、どうにもならない。
しばらく、最善の努力を続けてみたけど、諦めた。
これ以上やるには、いろんな意味で覚悟がいる。
仕方ない、こっそり確保してあるビスケットで我慢するか……。
ガリガリガリガリ。
と、ドアの向こうでシルバーが前足でドアを引っ掻き、部屋に入れろとせがみはじめた。
僕は、盟友に敗北を伝えるため、部屋を出る。
シルバーはどうにかして部屋へ入り込もうとするが、僕がそれを許さない。
「だめだよ、シルバー。入ったら教授にしかられる……残念だけど、今日は諦めよう。味は保証しかねるけど、何か用意するからさ」
ガリガリガリガリガリガリガリ……
再びドアが閉じられても、シルバーは部屋に入ろうと必死だ。
そこでふと、僕は発案した。
「うわぁ、シルバーやめろー!」
わざとらしく叫ぶと同時に、ドアを開け放つ。
これ幸いとシルバーが突入し、教授の上にのしかかった。
ハフ、ハフ、ハフ、ハフ、ベロベロベロベロベロベロベロベロ……
しっぽをブンブン振って、シルバーはシーツの上から教授の顔を、一心不乱に舐めまわす。
「カーナ?……イヤぁ、ちょっと、何?……シ、シルバー?……ヤめなさいっ!」
たまらず教授は、跳ね起きた。
さすがはシルバー、僕には真似のできない起こし方だ。
それにしても……これから月世界を旅しようってのに、大丈夫かな?
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