小説TOP
絶対王政猶予期間
〜 デットリメンタル ギャンブラー 〜 Page:0004 
BACKPAGE NEXTPAGE


女の前では平気な顔を繕って見せたが、体の痺れと首に掛けられた力は残っている。
「すまん。」
とりあえず、自分のとった行動の非を認めている藍は素直に謝った。
けれど、白夜はそれを否定する。
「お前じゃねえよ、自分に一番腹がたってンだからな」
「白夜?」
「……なんでもねえ。明日の予定は変えなくていい。ただ服は襟の高いヤツを用意しとけ」
珍しい。
彼が冗談でなく、自分の心情を隠そうとするのは。
「で? どういうつもりなんだ?」
白夜の腕を掴んで立たせる。動きを手伝うというよりは、ジャマなものをどかすような無造作な動作。
「何が?」
「決まっているだろう。あの賭け、だ」
多少、フラつきながらも自分の足で立ち、ベットの端に腰掛ける。
「どうもこうもないだろう? 初めて俺と賭けをした奴が聞く事でもないな」
藍がこれ見よがしな溜め息を吐く。
あのときの賭けもマトモではなかったが、この主の考えは全く見る事が出来ない。
「…それで勝ったとして」
「それはお前次第だろ。きっちり守れよ」
まるっきり人事のように言い捨てる。
藍は思わず頭を抱えた。
「…それで、勝ったとして。あの女が大人しくお前に仕えると思うのか?」
それが一番の疑問だ。
こんな詐欺まがいのやり方で、仕掛けられた賭け。
女が冷静になれば、白夜に仕える素振りで、彼を殺すことを思いつくかもしれない。
「彼女は、自分の主人がいるわけじゃないぜ。あのプライドは自身に向けてるモノだったからな。だったら簡単だろ?」
何気なく言う白夜に、呆れがまず先に立つ。
「お前は…」
「藍」
言葉を遮って、白夜が呼び掛ける。
その笑顔が示すのは、絶対の自信。
「お前は、どういうつもりで俺に仕えてる?」
「―――――…。」
「俺に、本気にならない人間がいると思うか?」
口元に笑みを向けながら、その視線の強さ。
そう、時折見せるこの強さには、たぶん誰も逆らえない。
それが当然とする、彼の、王としての、資質。
「…なるほど」
つい零れる苦笑。
自然と両手が挙がる。
「―――――確かに。いないな。」
完敗。
あの時も。そして、きっと今回も。
彼が、王である自分を見失わない限り、臣下は誰も彼には勝てない。
彼にとっては、ゲームでしかない賭け。
断片でも、藍は、その未来を確信した。
けれどそれは、藍自身のプライドを傷付けるものでもあった。
勝てないのだろう。彼女は。
けれど、それは自分の力の未熟さゆえではないのだ。
それが、藍に求められる唯一の事項でありながら。
すでに思い知っていた真実を、藍はもう一度噛み締めた。
――――それが無意味ではないとは、もちろん知ってはいるのだが。