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これからどうなる?−私はこう思う。
貸し渋りはどうなる
2003.05.22 更新
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。

 あいかわらず中小企業をとりまく金融環境は悪い。景気が悪いのだから、当然だと受け止める人がいるかもしれないが、事情はもう少し込み入っている。中小企業経営者が抱く景況感は、各種の調査に共通して2001年11月に底を打ち、その後、次第に上昇してきた。ところが、日銀短観などが示す「中小企業の資金繰りDI」や「金融機関の貸出態度DI」は、逆に2001年第3四半期から下落の傾向にあるのだ。

 つまり、中小企業はこの不況のなかで事業展開に何らかの光明を見出した時期にも、金融機関はそれに見合う融資を行わず、中小企業の資金繰りは苦しかったわけである。このギャップを、中小企業は自己資金や親族・友人・知人からの出資・借入によって埋めてきたことが『2003年版中小企業白書』のデータにも現れている。この間、大企業の資金繰り感は横這いであり、中小企業向け融資に特有の問題が存在することを示唆している。

 ひとつは、この時期に金融庁が検査に用いた『金融検査マニュアル』が、財務・資金調達・経営システムのいずれにおいても馴染まない中小企業に適用されたことだ。日本の中小企業は良くも悪くも小さな資本で比較的大きな事業が展開できる仕組みのなかでやってきた。アメリカ起源の『金融検査マニュアル』は、小さな資本の企業には極めて過酷な結果を生むように出来ている。さらに金融機関は、こうした金融庁の厳しい検査を先取りするかたちで、少しでも問題が生まれそうな中小企業への融資を回避する傾向を強めてきた。

 もうひとつは、経済が比較的安定していた時代の信用保証制度が、機能不全を起こしていることだ。信用保証協会は審査を行うことで資金の回りにくい中小企業に評価を与え、その保証料で運営してきた。しかし、急激な景気の落ち込みと急速な技術進展のなかで、審査能力に疑問符が付き始めている。信用保証制度の改革案はあるが、そのほとんどが保証料の値上げに終始し、時代に合った審査能力の向上をあまり考えていない。

 さらにもうひとつ、健全なノンバンクの発達が進んでいないことだ。街金や商工ローンはもちろんのこと、カードローンによる臨時的な借金も、いまだに金融機関の融資停止が怖くて公言できない。これでは、利子が高めの運転資金や、資金ショートのさいのつなぎ資金に対応できる、金利に幅のある安全なノンバンク金融商品は生まれないだろう。

 中小企業庁は今年の2月から資金繰り支援保障制度をスタートさせ、借り換えを可能にした。また、日銀は売掛債権の流動化を狙って買い取りを行うと発表している。しかし、これらは制度の隙間を埋める暫定的な措置といった感がぬぐえない。現行の『金融検査マニュアル』の中小企業への適用を停止し、信用保証制度における審査力を強化し、健全なノンバンクのための制度を整備するなど、基本的なレベルでの見直しが求められている。




(東谷 暁=ひがしたに・さとし ジャーナリスト)
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