*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
「来年の参院選は関ヶ原の戦い」――9月25日、民主党の臨時党大会で無投票再選された小沢一郎代表は、自民党からの政権奪取に檄を飛ばした。4月に登板した直後、千葉7区補欠選を勝利して以来、全国行脚して参院選候補の発掘、調整にあたるなど陣頭指揮をしており、闘志は満々。この日、自民党は安倍晋三総裁以下の三役体制を整え、国会対策委員長にかつて小沢側近だった二階俊博氏を起用するなど対民主党シフトを敷いた。小沢VS安倍、決選のゴングは鳴ったが、小沢氏はどう戦うのか。
安倍新内閣がスタートした26日、一部の新聞に民主党の全面広告が掲載された。異彩を放ったのは、満面の笑顔で立つ小沢氏の横に、「政治とは生活である」と大書されたキャッチコピーだ。これまでの政治的なスローガンとは異なる「人が、暮らしが、豊かな国へ」との文字。「誇りと自信のもてる、美しい国」(自民党)との違いを明確にさせようとする意図が透けてみえた。
小沢氏は、自民党との戦いの場を、臨時国会での論戦から始めようとしている。党首討論の毎週開催を呼びかけているのは、豊富な政治キャリアで安倍氏を圧倒するつもりだからだ。次いで、10月22日の衆院補欠選(神奈川16区、大阪9区)と沖縄知事選(11月19日)に全力投球する。補欠選ではすでに8月から全議員、党職員、秘書をフル動員してドブ板選挙を展開中だ。沖縄知事選では困難視されていた野党候補の一本化にこぎつけた。安倍自民党の出鼻をくじくため、全勝をもくろんでいる。
党内は、代表代行に菅直人、幹事長に鳩山由紀夫の両氏を配すトロイカ体制を維持し、執行部を委員会制にして機動的な対処ができるように改めた。人材の配置は、思想、信条の異なる各グループに配慮し、融和に努めている。ただ、選挙の要となる組織、企業団体、財務の各委員長は、旧自由、旧民社の両グループで固めていて、それがどう影響するか。
小沢氏は、参院選で与党を過半数割れに追い込むため、目下社民、国民新党、新党日本、グループ大地の各党との選挙協力を画策している。とくに29ある一人区が勝敗のカギを握るとみて、場合によっては民主党が譲歩することもいとわず、勝てる候補の擁立を目指している。さらに自民党離党組のうち、無所属の議員たちとひそかに接触し、“引き抜き”を図っているほか、比例票集めのため、知名度の高い田中康夫前長野県知事(新党日本代表)や田中真紀子元外相らとの連携も意識している。
いっぽう、政略家として知られる小沢氏は、今回の自民党および内閣人事で生まれた亀裂に手を入れ、反安倍勢力と意思疎通を図ろうとしている。とくに第2派閥の津島派(平成研究会)が冷や飯を食っているだけに、同派の内情をよく知る小沢氏にとっては、揺さぶりをかけるチャンス。小沢氏の戦いの正攻法は、参院選に勝利し、次の衆院選で勝って政権交代を実現することだが、安倍氏の引責辞任を仕掛け、その後の首相指名選挙で政界再編をうながし、いっきょに政権奪取を図るという“ウラ技”を使うことも考えられる。
しかし、そこで注意しなければならないのは、かつて小沢氏が非自民の細川連立政権をつくったときに浴びた「野合政権」の批判であろう。安倍政権がプリンシプルを前面に打ち出したのなら、やはり打ち立てるべきは民主党の理念の旗印だ。はたして小沢氏は寄合い所帯の民主党をまとめきれるだろうか。その旗印はまだ見えていない。
いっぽう、船出したばかりの安倍政権だが、国会や選挙のハードルはいかにも高い。国政選挙での敗北は即、退陣につながりかねない。他方25日、15年ぶりに小沢氏の入院騒ぎがあった。万が一持病の狭心症が悪化するような事態になれば健康不安が表面化し、小沢氏が民主党最後の政権奪取の「リーサル・ウェポン」(最終兵器)なだけに、民主党が自壊、そのまま安倍政権の勝利につながる恐れがある。
(松本泰高=まつもと・たいこう、政治ジャーナリスト、『日本の論点』スタッフライター)
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