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議論に勝つ常識
2004年版
[都市開発についての基礎知識]
都市開発と景観保護は両立するのか?


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空前の大規模再開発ラッシュ
 小泉内閣が景気対策の一環として「都市再生」を掲げたのは、二〇〇一年五月のことだった。翌年六月には「都市再生特別措置法」が成立。全国に「都市再生緊急整備地域」を指定し、建設関連の規制を緩和することで、民間の力を集中させて土地の有効利用と経済活性化を図ろうというわけだ。
 これが成果を生むのはまだ先だが、すでに東京は品川や汐留を中心に空前の大規模再開発ラッシュとなっている。二三区内で二〇〇三年中に竣工する延べ床面積一万平方メートル以上の大規模オフィスビルは四〇棟以上。東京ドーム四六個分に相当する二一七万平方メートル前後のスペースが新たに誕生するという。これはバブル期を上回る空前の規模だ。
 こうした動きを、東京大学の八田達夫教授は「長期的観点からも短期的観点からも必要」と評価し、その理由として〈都市再生による都心の床面積の大量供給は、床面積当たりのオフィス賃料・家賃を大幅に引き下げ、都心への集中を可能にし、オフィスの生産性を高める〉(日本経済新聞二〇〇三年六月二七日付)などを挙げている。だが一方、法政大学の五十嵐敬喜教授が〈都市計画の規制を取り外す行為で、欧米では考えられない暴挙。過剰供給でミニバブルの崩壊を招き、超高層ビル群が街並みをますます醜くする〉(朝日新聞二〇〇三年六月一七日付)と述べるように、行き過ぎを危惧する声も少なくない。
 また建築評論家の飯島洋一氏は、一連の大規模再開発を〈「面白ければ周囲に関係なく、何をやっても自由なのだ」という思想のもとにデザインされている〉とし、〈この傾向は都市再生という面だけに起こっている事柄ではなく、今の社会全体の中に潜んでいる気分であり、本来の社会にあるべき規範が崩壊していることの表れ〉と指摘している(日本経済新聞二〇〇三年六月一五日付)。


新築マンションと地元住民の対立
 現実に、新たな建造物をめぐって地域住民と施工主などが争う事態が各所で起きている。特徴的なのは、従来の「日照権」ではなく「景観」が争点になっていることだ。
 たとえば二〇〇二年一二月、東京地方裁判所は、東京都国立市に建設済みの一四階建て(高さ四四m)のマンションについて、七階以上(二〇m以上)の部分の撤去を命じるという異例の判断を下した。このマンションの建つ「大学通り」には、約七〇年にわたって地域住民に守られてきた美しい桜並木がある。判決は「景観を守ることは土地所有権の内部に含まれる義務」とし、住民の「景観の利益」を認める形になったのである。
 ただし、この判断には曖昧な点も残る。一九九九年に建設計画が持ち上がったとき、ただちに住民による反対運動が起き、翌年には建造物の高さを二〇m(桜並木の高さ)以下とする市条例が成立した。だが、マンションは条例施行の一カ月前に着工していることから、同裁判所は「建築基準法上は適法」との判断を示している。加えて、この判決はあくまでも地域の特殊性を考慮したものであり、一般的な「景観権」や「環境権」は法的な権利としては認められない、とも述べている。
 結局、住民側、業者側ともにこの判決を不服として、東京高等裁判所に控訴した。すでに入居者のいるマンションの一部を撤去することが現実的に可能かという問題も含め、当分争われることになりそうだ。
 こうした事態を受けて、東京都内の自治体では、独自に建築基準を定める動きがある。「絶対高さ制限」と呼ばれるもので、文字どおり建造物の高さを一定以下に制限する。従来の建築基準法等は容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)で高さを規定していたが、この手法なら周辺の環境に合わせて高さを制限できるわけだ。
 例えば三鷹市は、市の九九%以上を対象に、最高でも三五m以下とする。あるいは世田谷区や目黒区は、地域によって三〇mまたは四五mを上限とする。これらの規制は二〇〇四年夏ごろから、まず都内一一区市で導入される予定だ。住民訴訟が相次ぐ他の自治体でも、追って導入されることになりそうだ。


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論 点 都市をどう再生させるか 2004年版

私の主張
先人の公的精神を受け継ぐ――それが同潤会アパート建替えの主旨である
安藤忠雄(建築家)


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