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論 点 「成果主義を強化すべきか」 2005年版
新入社員に給料の格差をつけてどうする――成果主義が若者の意欲を削ぐ
[成果主義についての基礎知識] >>>

たかはし・のぶお
高橋伸夫 (東京大学大学院経済学研究科教授)
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働く意味とは、やりがいのある仕事
 これは、あるときまで職人的な自信だけでやってきたサラリーマンの体験談である。
 〈かつて自分が働いていた職場の同僚から「戻ってきて、また一緒に仕事をしないか」といわれた。感激した。そんな自分にびっくりしたが、本当に涙が出るほど感激した。自分のことを身近で何年も見ていて、よく知っている人たちが、私とまた一緒に仕事がしたいと言ってくれている。そのことがこれほどうれしいことだとは思わなかった〉 このたった一言で、彼の仕事観、職業観は大きく変わったという。私は思う。結局、評価というものは、そういうものなのだろう。どうか、そんな経験を若い人にさせてあげてほしい。
 そもそも評価というものは、「うちは○○君でもっている」という評判だとか、「また一緒に君と組んで仕事がしたい」「あの人と一緒に仕事ができるのだったら、給料なんていくらでもかまわない(手弁当でもやらせてほしい)」、反対に「あんなやつとは二度と一緒に仕事をしたくない」というものなのだ。これは入社して一月やそこらで見えてくるような評価ではない。
 もしあなたが、あるプロジェクトを任されたら、おそらくあなたは何人かチームのメンバーを指名・拒否する権限を要求するはずだ。そして、これまで仕事をともにし、お互いに長所も短所も知り尽くした仲間の何人かをきっと指名する。
 この世のすべての仕事は共同作業であり、誰かと一緒に営んでいくものなのだ。あなた一人では何もできない。あなたを助け、支えてくれる仲間がいるからこそ、納得のいく仕事ができる。そのことに気がついていたからこそ、あなたはこれまで成果を上げ続けることができたのだ。


人事の本質は「次の仕事」で報いることにあり
 拙著『虚妄の成果主義』の主張は、ある程度の歴史をもった(つまり、生き延びてきた)日本企業の人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステムだったということである。仕事の内容がそのまま動機づけにつながって機能してきたのであり、それは内発的動機づけの理論からすると、最も自然なモデルでもあった。他方、日本企業の賃金制度は、動機づけのためというよりは、後顧の憂いなく安心して仕事に没頭できるように、生活費を保障する観点から平均賃金カーブが設計されてきた。この両輪が日本企業の成長を支えてきたのである。それは年功序列ではなく、年功ベースで差のつくシステムだった。
 いまこそ原点に立ち返り、従業員の生活を守り、従業員の働きに対しては、次の仕事の内容と面白さで報いるような人事システム「日本型年功制」を再構築すべきである。
 そんなこと言っても、面白い仕事は限られているし……と愚痴が聞こえてくる。しかし、逆説的に聞こえるかもしれないが、そんなに面白い仕事ばかりではないからこそ、次の仕事で報いるという発想が必要になるのである。
 たとえば、あなたが大変な「雑用」ポストを押し付けられてしまったとしよう。尊敬する上司から、実は若い頃に同じ仕事をさせられたことがあるという話を聞かされたり、さらには将来の経営者候補にはこの仕事を一度は経験させるべきだと役員が言っていた、などという話を聞いたりするだけで「雑用」の意味づけが変わってくる。この「雑用」が一生続くわけではない。この「雑用」を終えた後に待っている次の仕事、それこそがあなたの頑張りに対する真の報酬なのだ。これが日本型年功制の処遇の考え方なのである。
 ところが、そんな裏方の雑用でも“素晴らしい成果主義”の下で上司に、
 「賃金はきちんと成果の対価になっているはずだ。成果を上げれば金をたくさん払うといっているんだから、嫌な仕事でも文句を言わず働け」
 と言われたら、あなたは目が覚めるはずだ。どんなに素晴らしい成果主義でも、これでは懸命に働く気にならない。そのとき、あなたは悟る。本当は金銭的報酬ではなく、やりがいのある次の仕事を期待していたことを。
 実際、会社で手柄を立てたとき、そのご褒美の希望を聞かれ、キャッシュが欲しいと答えたという人を私は知らない。私の知る範囲では「今、社内で動き始めている○○プロジェクトがありますよね。私をぜひあのプロジェクト・チームに参加させてください」「入社のときからずっと憧れていたんですが、○○本部の△△部長の下で働かせてください」「実は、この企画書のような新規事業プランを温めているのですが、ぜひ、このプランに予算を付けてくれませんか」といった次の仕事を求めるのである。


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たかはし・のぶお
高橋伸夫

1957年北海道生まれ。小樽商科大学商学部卒、筑波大学大学院社会工学研究科単位取得退学。東北大学助教授などを経て、現在、東京大学大学院経済学研究科教授。専門は経営学、経営組織論。著書に『できる社員は「やり過ごす」』『鉄道経営と資金調達』など。アカデミズムと現場をリンクさせた平明な語り口には定評がある。近著『虚妄の成果主義――日本型年功制復活のススメ』は、企業トップに衝撃を与えるとともに現場社員の熱い支持を集め、ビジネス書部門で04年一番の話題作に。



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