塩野さんは、1992年からローマの興亡を描く『ローマ人の物語』を年1作のペースで刊行し、昨年12月には『最後の努力 ローマ人の物語]V』を上梓(新潮社)した。塩野さんによると、ローマが隆盛を極めた紀元前1世紀には、子どもを持たないというライフスタイルが社会現象化したという。紀元前27年に初代の皇帝となったアウグストゥスは、少子化を心配して、「ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法」、「ユリウス正式婚姻法」の二法をつくるとともに、未婚女性への課税や、子どもが多い男性の公職への優先的採用などによって正式な結婚と出産を奨励した。その後300年近く続いたこれらの制度によってローマの少子化を遅らせることができたといわれる。
12月31日、厚生労働省が発表した2004年の人口動態統計・年間推計によると、出生数から死亡数を引いた自然増加数は過去最低の8万3000人で、初めて10万人を割り、出生数を死亡者数が上回る人口減社会になることが確実になった。国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」によると、日本の人口は、2006年の1億2774万人をピークに毎年減少し、2050年には1億59万人、100年後には半減する。いっぽう、ひとりの女性が生涯に産む子どもの数である合計特殊出生率は、2003年に1.29と史上最低を記録、04年はさらに更新されそうだ。
少子化は日本の将来に大きな影響を及ぼす。とりわけ経済には深刻な打撃を与える。労働人口の減少は生産規模の縮小を招き、設備投資を抑制させる。また国の税収が減り、逆に年金などの社会保障費がかさみ、国民の負担も増える。当然、消費は落ち込み、貯蓄率も下がる。反対に人口の減少は土地など空間的なゆとりが増え、エネルギー消費や廃棄物が減ることで環境が改善されるというメリットもあるが、その維持には相当なコストがかかる。
女性が子どもを産まないから社会が縮小均衡に向かうのか、未来に不安があるから女性は子ども産まないのか――いずれにせよ、社会構造のうえで、女性たちの前に産みたくても産めない現実が立ちはだかっているのは間違いない。では少子化対策に活路はあるのか。
歴史人口学が専門の鬼頭宏上智大教授は、「日本はこれまでに三度、人口の停滞や減少を経験」してきた。それは縄文時代後半、平安時代、江戸の中・後期で、江戸期には、藩が養育手当を出して少子化対策をした記録が残っているという(日本経済新聞1月1日付)。これと似ているが、「子育て基金」創設を提案するのは、高齢社会・少子化研究が専門の金子勇北大大学院教授である。30歳以上の国民が収入に合わせて毎月払い込み、18歳までの子育て家庭を支援する。子どもを公共財とみなし、社会全体で応援するシステムで、子どもを持たない人=フリーライダー(ただ乗り)には金銭的な負担を負ってもらうというものだ(『日本の論点』05年版)。また、斎藤学・家族機能研究所代表(精神科医)は、非婚シングルマザー(いわゆる未婚の母)を認知するよう訴えている。現に出生率が大きく改善したフランスの戸籍制度「エタ・シヴィル」は個人単位で、婚外子出産にも一切不利はない。それどころか政府が手厚い出産手当を支給している(『日本の論点』04年版)。
政府は、昨年12月に「子ども・子育て応援プラン」(新新エンゼルプラン、2005〜2009年度)を策定した。個々人への保育支援だけでなく企業へも働きかけようというのが特徴で、従業員301人以上の企業に対して、仕事と家庭の両立を支援する数値目標付きの行動計画づくりを求めている。塩野さんも、「少子化問題に本気で取り組むなら、子どもを持つ家庭に徹底的な経済支援をすべきだ。キャリア面でも子持ちの人が得をする制度をつくる。また移民受け入れの前に、世界に散らばる日系人の能力やネットワークの活用を考えるべきだ」と提案している。
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