IT関連企業のライブドアは、インターネットとテレビのメディアミックスを狙って、ニッポン放送の株を大量に買い占め、一挙に筆頭株主(保有比率34.99%)になった。その手法は、自社の転換社債を発行、これを購入資金に充て、市場の時間外取引によって短期間で実現するという意表をついたやり方だった。株式時価総額がフジテレビの三分の一にすぎないニッポン放送が、自社の5倍の売上高を誇るフジテレビの株を保有(22.5%は筆頭株主)していることによって、新聞、レコード、出版などの関連会社を形式的に支配しているというフジ・サンケイグループのいびつな経営形態の盲点を突かれることになった。
ライブドアの株買い占め資金約800億円は、2005年9月期連結決算の税引き利益見通しの15倍に相当するという金額だ。これをライブドアは「海外円建て転換社債型新株予約権つき社債」を発行し、米国投資ファンドのリーマン・ブラザーズ証券に購入してもらうことで用立てた。この社債は、通常の社債より利息が低く、資金調達が新株発行による公募増資に比べ、一気に株式が市場に出回らないので株価への影響が少なくて済む有利さがある。ただ、ライブドアの株価が上昇すれば株に転換され、逆に下落すると判断されれば空売りされて自社株の下落を招くというリスクを持つ。さらに転換価格は時価より10%低い条項も盛り込まれ、リーマンが株式に転換してすぐに売却すれば容易に利益をあげられるなど有利な条件になっており、今回の買収にライブドアは社の命運を賭けたかたちだ。
しかもライブドアは、時間外取引、つまり、価格が変動する東京証券取引所でなく、市場が開く前に売り手と買い手が価格を個別に決めて行う市場外での取引(時間内取引の直前値の上下7%以内で、1株6050〜6100円)によって大量のニッポン放送株(972万株)を取得した。この取引は、通常、機関投資家同士が市場に影響を与えず株価の大幅な変動を防ぎながら、大量の売買を行う際などに活用されるもので、今回のような相手側の意向を確かめない敵対的な企業の買収(M&A)に使われたのは初めてだ。
1月17日以降、フジテレビは、小が大を支配するというグループの構造を解消するために、ニッポン放送を子会社化するよう、ニッポン放送の株式公開買い付け(Take Over Bid=TOB)を行っていた。TOBは、企業買収などを目指す投資家が、買い取りの株式数や期間、価格などを公表し、不特定多数の株主から市場を通さずに買い集める手法で、一定の価格で短期間に大量の株を取得できるメリットがある。フジテレビは買い付け価格を1株5950円としていたが、ライブドアはフジテレビの裏をかくかたちでひそかに買い占め、2月8日、筆頭株主になったことをいきなり公表したものだ。このため、出来高が急増し8日には1000円高まで急騰、10日には最高値8800円をつけるなど、それ以後のフジテレビの買い付けをむずかしくさせた。
フジテレビは、こうしたことからライブドアの業務提携申し入れを拒否する一方、これからの買い占めに対抗するため、当初の買い付け価格を維持したまま、取得目標比率を当初の50%超から25%超に引き下げ、買い付け期限も延長(2月21日から3月2日)することに方針を変更した。投資家の売却を促して株価を下げ、TOBを達成しやすくするためだ。TOBが成功すれば、商法241条の規定で、フジテレビに対するニッポン放送の株主総会での議決権がなくなり、これによってライブドアの間接支配を排除できるわけだ。一方のライブドアは、ニッポン放送株の増資を図ることで、あくまで51%の株取得で経営権を確保したい意向だ。また、ニッポン放送の株主上位10位の持ち株比率が75%超になると、東証の上場廃止基準に抵触するため、フジテレビとしては上場廃止に持ち込むことで株の流動性をなくしてライブドアに打撃を与えることも検討している。このため、ニッポン放送に第三者割当増資をさせてライブドアの持ち株比率を引き下げることも考えているという。
金融庁は、一般投資家への情報開示など、透明性の高いTOB制度を確保するため、経営権の取得を目指した、今回のような時間外取引を規制する証券取引法改正に取り組む方針だ。伊藤金融相は15日の記者会見で、「時間外取引は使い方によって相対取引(証券会社が特定少数の売り手と買い手を一度に結びつけ、売買を成立させる手法で規制対象)に類似した形態になりうる」と語った。
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