ライブドアによるニッポン放送株買い占めが表面化(2月8日)してから2週間が過ぎたが、2月23日現在、ライブドアの株保有率が議決権ベースで40%を超えたことがわかった。いっぽう、ニッポン放送は23日夕の記者会見で、第三者割当増資によってフジテレビに4720万株の新株予約権を発行すると発表、これによってフジテレビがニッポン放送を子会社化することが可能になった。ライブドアは企業防衛のため株主利益を無視したとして、新株予約権発行差し止めの仮処分を24日にも東京地裁に申請することを発表、両者の攻防はヒートアップしている。この買収劇をめぐって、政界や財界などでは、ライブドアに批判的な意見が相次いだ。冒頭の奥田会長発言は、それらを踏まえて双方の経営者に注文をつけたものだ。
堀江貴文・ライブドア社長への批判は、時間外市場内取引による、適法だが事実上の相対取引で大量に株を取得するというやり方に集中した。株主への情報開示を避けた不透明なもので、株主平等の原則に反するというわけだ。また、敵対的買収を行いながら一方的に業務提携をもちかける無神経なビジネスマナーも嫌われた。しかし、こうした批判に対して、M&A(企業の合併・買収)は、正当な手法で、欧米では日常茶飯事に行われる、日本でも新しい会社法が成立すれば、2006年以降は大型買収時代が到来するとみるエコノミストもいる。経済評論家の三原淳雄氏は「閉塞していた日本経済の壁を突き破った。日本人の目を覚ました"平成の黒船"だ」とライブドアを評価(東京新聞2月22日付)している。
過去にメディアが買収対象になった例として、日本では1996年、テレビ朝日の株が豪州のメディア王、マードック氏の経営するニューズ・コーポレーションと孫正義氏のソフト・バンクの合弁会社に買い占められ(21.4%)、筆頭株主を譲らざるを得なかったことがあった。このときは外資の支配に対して国内の反発が起き、両者は株を朝日新聞に売却して撤退した。米国では、90年代に入り、異業種によるテレビ局の買収が目立ち、ディズニーがABCを、ウェスティングハウス(電機メーカー)がCBSを買収した。最近では、2000年に新興ネット企業のAOL(アメリカン・オンライン)が大手メディアのTW(タイム・ワーナー)を支配下に収めるかたちで合併したが、03年にはネットバブルが崩壊し、社名からAOLが消えた。
ライブドアとフジテレビの攻防の先行きはどうなるのか――ライブドアは51%超の株保有によってニッポン放送の経営権を握り、増資によってフジ・サンケイグル―プへの影響力を行使しようとしている。しかし、ニッポン放送は158億円の新株予約権の発行により、TOBの正否にかかわらず、フジテレビが一気にニッポン放送を子会社化する究極の対抗策を打ち出したわけだ。新株予約権は、株式を一定の価格で購入できる権利で、これを行使することでフジテレビは6月下旬までに発行済みの3280万株とあわせて6割超を保有することができ、ライブドアの株保有率は一気に10%台に低下することになる。両者の攻防は今後も目を離せない。
ところで、ライブドアには不安材料も指摘されている。1000億円の総資産しかないのに800億円もの巨額の資金調達をしたため、もし買収に失敗すれば資金調達を引き受けた米国のリーマン・ブラザーズ証券に会社が支配される恐れがあるのだ。発行した下方修正条項付き転換社債(ムービング・ストライク・コンパーチブル・ボンド=MSCB)は、証券界で"禁断の麻薬"といわれるほど、発行したほうにリスクがつきまとう。今回は転換価格がつねに市場より10%低く設定されていてリーマン側に極めて有利。株価が下がるほど取得株式数が多くなり、損をしない仕組みになっている。過去、上場企業のなかには、丸石自転車のように、業績不振をもち直そうとMSCBに頼って失敗した会社もある。
今回のニッポン放送株買収劇を契機に、さまざまな動きが出始めた。金融庁は、時間外取引について、3分の1を超える株式取得の場合にはTOBを義務づけるよう、証券取引法改正に取り組む。また総務省は、外資が間接的に日本の放送会社を支配できないよう、電波法や放送法の改正に乗り出した。現在は、外資の議決権比率が20%以上にならないように義務づけているだけで、外国企業が大株主の日本企業が、放送会社の大株主になることを想定していない。このほか、法務省は、会社法案に敵対的買収の防衛策として、米国では約6割の企業が導入している「ポイズン・ピル(毒薬)」という制度を盛り込む方針だ。これは、買収者が現れた場合、既存株主に安価で新株を発行し、全体の株式数を増やして買収者の比率を引き下げるというものだ。
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