この討論会に出席した安倍晋三・自民党幹事長代理が、北朝鮮への経済制裁について「決定打にはならないが、実効性はある」と、日本は単独制裁も辞さないと強調したのに対し、アーミテージ・前国務副長官は「一国で経済制裁を効果的に行うのは難しい」とクギを刺した。これは、経済制裁は多国間、つまり国連安保理の場で行うことを想定しているブッシュ米政権の意向を代弁したものだ。
日本では3月1日、「改正船舶油濁損害賠償保障法」が施行され、国土交通省係官が、京都・舞鶴港などで北朝鮮船舶に対し立ち入り検査を行った。この法律は、放置座礁船対策として100トン以上の船舶に船主責任保険の加入を義務付けたもので、97.5%が保険未加入の北朝鮮船舶は、結果として日本に入港できなくなった。日朝間を往来する年間約100隻の北朝鮮船舶のうち、保険加入証明書が交付されたのは16隻だけで、いまのところ「万景峰号」を含めた大半の船舶の入港見通しが立っていない。事実上の経済制裁といわれるのは、このためだ。
北朝鮮の対日輸出額は水産物など年間176億円(04年実績)で、中国、韓国に次ぐ第3位の貿易相手国。船舶が入港できないとなると、影響は甚大だといわれている。しかし、2月28日、自民党の「対北朝鮮経済制裁シュミレーションチーム」(座長・菅義偉衆院議員)が北朝鮮産のアサリの8割以上が水揚げされる山口・下関港を視察したところによると、大半のアサリが中国船籍の船で水揚げされ、いったん有明海などで再生育されて生産地が偽装される、などの抜け道があることが判明した。
北朝鮮への経済制裁としては、すでに自民党が人道支援の凍結・延期から始まって、船舶の全面入港禁止に至るまでの計5段階の制裁プログラムを発表済みだ。さらに、米国の北朝鮮人権法にならって、脱北者の保護・支援などを盛り込んだ日本版の北朝鮮人権法案をまとめた。野党の民主党も脱北者に定住者としての在留資格を付与するなどを内容とした北朝鮮人権侵害救済法案を独自に用意している。
いっぽう北朝鮮は、昨年6月の第3回協議以来中断している6カ国協議について、2月10日に「参加を無期限に中断する」と表明したものの、その後、中国の説得を受け入れたのか、21日、金正日総書記が、「条件が整えば復帰する。離脱するつもりもない」とやや軟化した発言をした。今後の見通しをめぐっては、安倍氏が「北朝鮮に選択肢はない。6カ国協議で解決策に応じるか、これを拒否して国連安保理で経済制裁が議論されるか2つに1つだ」と指摘したのに対し、アーミテージ氏は討論会の席上、「北朝鮮は冷静に生き残りを計算しており、6カ国協議の場に戻ってくる」と語った。
日本政府の立場としては、「6カ国協議に参加することが北朝鮮の一番の利益だ。無条件が一番いい条件だ」(小泉首相)として、米国や韓国と歩調を合わせながら北朝鮮に早期・無条件復帰を呼びかけている。しかし、経済制裁の発動に対しては、米国はじめ6カ国協議の参加国が総じて慎重なことを踏まえ、自民党の積極姿勢とは一定の距離を置いている。
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