中国は安い製品を輸出していることで世界から「デフレの輸出国」と言われている。各国が中国からの輸入を増やすのも、中国通貨の元が実勢レートより過小評価されているからである。このため、国内では空洞化する産業がでてきており、米国や日本など貿易相手国から、為替レートの是正、つまり元切り上げを求める声が高まっている。温家宝首相は、政府活動報告(3月5日)のなかで、「人民元為替レート形成メカニズムの改革を着実に進め、合理的で均衡のとれた水準に維持し基本的安定を保つ」と、為替の変更には慎重な立場を強調していた。それだけに元切り上げについての発言は、市場関係者らに路線の修正を示唆したと受け止められた。
中国の為替制度は、相場は市場に任せるが、必要に応じて中国人民銀行が介入するという「管理フロート制」を採用している。人民元は、1985年ごろは実勢レートで2.9元程度、90年には5元となり、94年に3割以上を一方的に切り下げた。その後は米ドルに対し、ごく狭い変動幅で抑えられ、事実上、変換比率を1米ドル=8.28元に一定した固定相場と同じかたちになっている。このため、外国資本の流入が相次ぎ、貿易決済面でも有利に働いた。中国の貿易収支は黒字に転換し、外貨準備高も増加した。これを裏づけるように、中国の貿易総額は、04年の収支速報で初めて1兆ドルを突破(1兆1547億ドル=約120兆円)し、日本を抜き、米国、ドイツに次ぐ世界第3位の貿易大国になった。いっぽう、中国自身、2001年11月、世界貿易機関(WTO)に加盟したさい、06年末までに金融改革を進めることを公約したことから、為替制度についても変動相場制へ移行するか、元切り上げのどちらかを選択する決断を迫られている。
日本の貿易相手国は04年、中国が米国を抜いて第1位となった。貿易統計速報(04年版)によると、香港を含めた対中国貿易総額は前年比17.0%増の22兆2000億円で、全体の2割を超えた。前年比で輸出では、音響や映像関連などの電気機器、事務用機器などが大きく伸びている。輸入では、繊維商品、食料品、機械機器が増えた。また、中国にある日系企業が部品を日本から輸入して製品を組み立て、最終製品を日本はじめ米国、欧州に輸出する経由貿易も活発化している。これまで日本は、豊富で安価な中国の労働力をあてに生産拠点を中国に移し、国内産業の空洞化を招くという不安があった。しかし、近年、中国沿海部が経済的に発展し、日本にとって有力な消費市場が出現したことが、製品に偏りはあるものの、そうした危惧を解消しつつある。
冒頭の温首相の発言に対しては、(1)外圧に対する不快感の表明、(2)切り上げ期待にともなう投機資金流入に対する牽制、(3)改革の後退を示唆した――と見方が分かれた。しかし、今後の中国の出方について、金融市場は、国際公約の手前もあり、いずれ、米ドルに事実上連動している変動幅を拡大するか、ユーロなど米ドル以外の通貨にも連動させる通貨バスケット制度(複数の主要貿易相手国の通貨を一定割合で組み合わせたものに自国通貨を連動させる方式)を導入するのではないか、とみている(日本経済新聞3月15日付)。
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