EU(欧州連合)が中国に対する武器の輸出禁止に踏み切ったのは、当時まだEC(欧州共同体)だった1989年6月、天安門事件をきっかけに、米国と歩調を合わせて中国制裁を行ったときのことだった。しかしその後、EUでは、フランスやドイツを中心に中国との関係を改善しようという動きが強まった。
こうしたEUに対し、小泉首相は、東アジアの安全保障のバランスを崩すとして、初めて反対を表明した。米国と日本は中国の軍備増強をそろって警戒しており、さきに来日したライス米国務長官も「EUがこの時期に禁輸を解除すれば,中国に誤った合図を送ることになる」と語っている。背景には、中国の国防予算が17年連続で毎年10%以上増えていることや、台湾に対する武力行使の法的根拠となる反国家分裂法を成立させたことがある。
シラク大統領は、会談のなかで、「輸出はさまざまな制約や一定のルールの下に置かれており、武器禁輸を解除しても、武器輸出や技術輸出の状況は何ら変わらない。禁輸は現代の中国の状況に適合していない」と理解を求めた。シラク大統領には、禁輸解除によって、冷戦終結後の米国の一極世界支配に楔を打ち込むと同時に、EUの発言力を強め、経済成長を続ける巨大な中国市場との関係強化に役立てたいとの思惑がある。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所発行の年鑑(04年版)によると、99年から5年間で計118億ドル相当の通常兵器が他国から中国に移転された。その9割以上はロシアからで、仏を含むEUからは、空中早期警戒レーダーや火器管制レーダーなど先端技術の輸出が目立つ。いっぽう、防衛庁の防衛研究所が3月28日に公表した「東アジア戦略概観2005」によると、中国海軍は沿岸防衛型から近海防衛型に確実に変身しつつあり、台湾への武力行使と米軍の介入を阻止するための攻撃的な訓練も頻繁に行われるようになったと指摘している。
中国に対する武器禁輸の解除をめぐっては、EU内部でも、台湾への中国の強硬姿勢に対する懸念から、ここにきて解除に慎重論が台頭してきた。なかでも英国は、5月に予定される総選挙への影響を考えて、当初の6月だった解除の方針を来年に先延ばしする意向を固めた模様だ。
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