小泉改革の「本丸」である郵政民営化は、党内の反対で党執行部による調整は進展をみなかった。業を煮やした首相は、「今しかない。これはわたしの政治的な勘だ」と、自ら調整に乗り出し、なかば強引に政府案の骨子決定に持ち込んだ。国会の会期内(6月19日が会期末)に成立させるためには4月中の法案提出が譲れないという事情があるからで、すでに小泉首相は「廃案ということは小泉内閣不信任であり、倒閣と受け取るのが自然だ」と強調(2月9日)し、改めて不退転の決意を党内外に示した。
焦点の経営形態について、骨子では、持ち株会社は郵便貯金銀行と郵便保険会社の株を、民営化(2007年4月)したあと10年以内にすべて売却することとし、一応、完全民営化の原則を貫いた。しかし、持ち株会社が全額出資する窓口、郵便事業会社が、郵貯、保険の金融2社の株式を保有することを認めた。また、経営を分離させないようにするため、銀行業や保険業の免許取得の際に郵便局(窓口ネットワーク会社)と代理店契約を結ぶことを条件にするなど、一部では、自民党の要求を受け入れている。
北条恪太郎・経済同友会代表幹事は、株式持ち合いの容認について、「政府が関与する組織による郵貯・郵便保険会社の株式取得を認めるべきでない」と批判するコメントを発表した。郵貯・保険合わせて約350兆円の資金の流れを「官から民へ」、つまり巨額の資金を市場に放出することで経済の活性化をはかるという郵政民営化の本来の目的が、ないがしろにされるというわけである。現在、郵貯残高は214兆円(3月末)。4つのメガバンクの合計に匹敵する規模に達し、暗黙裡に政府保証を残す、つまり国債や財投債の受け皿の機能を温存するのであれば、郵政事業が肥大化し民業を圧迫するのは目に見えているからだ。
郵貯・保険の資金は、いままでは大蔵省(現在の財務省)理財局に強制的に預託され、財政投融資として、特殊法人や地方公共団体へ回されてきた。しかし、特殊法人のずさんな経営体質が批判され、2001年に強制預託は廃止された。だがその後、郵貯・保険の資金は年金とともに新たに財投債(国債の一種で、販売代金が財投資金になる)を購入する資金に充てられ、7割相当を購入している。現在、郵政公社は発行済みの国債、地方債、財投債を合わせ全体の4分の1にあたる約140兆円を保有している。郵政民営化に反対する論者の1人は、郵貯から民間金融機関への預け替えが急激に起きた場合、郵便貯金銀行はその支払いのために国債を売却せざるを得なくなり、そうなると国債の暴落が起き、金融不安を引き起こす恐れがあると指摘している。
今回の骨子では、国家公務員総数の3割近くを占める約27万人の郵便職員は、非公務員とし、このうち裁判所の文書など公共性の高い文書を配達する職員には公的な権限のある新たな資格を与えることにした。また、約2万4000局ある郵便局については、1兆円規模の「地域・社会貢献基金」を創設し、あまねく全国で利用される郵便局の配置を法律で義務付けると同時に、省令で過疎地の郵便局網の水準の維持を定めることにした。全国一律サービスの存続を求める自民党に配慮したものだ。
今回、政府案が提示されたことで、郵貯・簡保の「入り口」は示されたが、肝心の「出口」、つまり資金が流れる先の特殊法人改革には触れられていない。財政投融資システムである国民生活金融公庫など8つある政府系金融機関の統廃合は避けて通れない課題だったはず。2007年度末には特殊法人としての組織形態を廃止し、民営化か統廃合かの選択が迫られている。しかし、関係省庁や自治体、国会議員らの利害が絡み、一筋縄でいきそうにない。
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