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写真 「デモは自然発生的なものだ。過激な行動については、中国政府も認めていないし、目にしたくもないことだ」 (東京新聞4月11日付)
王毅・駐日中国大使

4月10日、町村外相が駐日大使を外務省に呼び、北京における反日デモで、日本大使館や日本料理店が投石などによって被害にあったことについて抗議し、謝罪と賠償を求めたことに対し、釈明した。


 9〜10日の反日デモに参加したのは、学生らを中心にした20〜30歳代の若者たちで、「小日本」、「日本鬼子」(いずれも日本に対する蔑称)を叫び、デモを呼びかけたインターネットサイト名などを書いた横断幕を掲げていた。北京でのデモ(9日)参加者は約1万人にのぼり、成都、広州、深センなどに拡大、1972年の国交正常化以降では最大の規模。彼らは、1980年代後半に始まったいわゆる“反日愛国教育”を受けた世代で、ネットを通じた、日本の国連安保理常任理事国入りに反対するデモへの参加の呼びかけに応じた。ちなみに中国のネット人口は約9400万人。その3割が若年層(18〜24歳)で占められている。中国は、無届けのデモや集会を原則的に禁止しているが、今回の場合、公安当局はデモの参加者に「ご苦労さん」と声をかけるなど事実上、黙認していた。

 中国外務省はこのあと、「デモは歴史問題などで日本に不満を抱く人々の自発的抗議行動だ。今日の中日関係の局面についての責任は中国側にない」との談話を発表し、責任を回避、さらに12日の記者会見では、秦剛・副報道局長が「日本側に原因があることは明らかだ」と述べ、謝罪の考えはないことを示した。いっぽう、温家宝首相もインドで「アジアの人々の強い反発に、日本政府も深く反省するはずだ」と語った。今回のデモについて、中国は報道規制を敷き、わずかに国営新華社通信が英文で事実関係を短く報じた(9日)程度だった。「外交関係に関するウィーン条約」では、在外公館の安寧と秩序を守るのは、接受国に国際法上の責任がある。今回の中国の対応は明らかに条約に違反しており、米国務省のバウチャー報道官は12日、「中国政府は外交使節への暴力を防ぐ責任がある。デモが制御されず、暴力に転化したことは非常に残念だ」と中国を批判した。

 中国の反日愛国教育は、江沢民政権時代(1989〜2002年)に強化された。小島朋之慶応大教授(現代中国論)によると、この愛国教育のポイントは、(1)歴史教育における日本断罪、(2)日本の罪業を後世に伝えるための愛国主義教育基地の建設、(3)メディアによる反日の刷り込み――にあり、「市場経済のもとで共産党の権威が失墜し、もはや抗日戦争に勝利した過去の栄光を強調するしか策がなくなった。愛国主義教育と抗日戦争史教育が同じになっている」という(東京新聞4月12日付)。

 歴史認識、靖国神社参拝、尖閣諸島(中国名=釣魚島)領有権、安保理常任理事国入り問題、春暁ガス田の開発利権など、中国にとっては反日の材料に事欠かないが、今回のデモは、よくいわれるのが、中国自身が抱える内政上の問題、沿海部と内陸部で広がる所得格差、賄賂の横行が背景にあるという説だ。つまり、役人や軍の汚職、若者の失業といった失政に対する不満が政府に向けられるのを恐れて、当局は反日を一種のガス抜きに利用しているというわけだ。昨年来、内陸部などでは食糧難や就職難への不満から農民や民工(出稼ぎ)、失業者らによる大規模な暴動やデモが頻発しており、当局はこれらのほこ先が中央に向けられ、いつ反政府運動に転化するかも知れないという不安にさいなまれている。現に英国の「タイムズ」紙社説(4月11日付、電子版)は、「暴徒化する群衆心理を後押しすれば、最終的には自らが敗者になることを中国指導者は理解しなければならない」と指摘した。

 ところが、今回の反日デモはパソコンをもてる比較的裕福な若者層――共産党の子弟に多い――が中心だった。ということは、格差に不満を持った民衆を意図的に反日に振り向かせる“官製デモ”の疑いが濃厚で、とすれば、ガス抜きどころか、この後始末いかんでは、中国政府はあらたな“職よこせデモ”を誘発しかねない危険性を抱え込んだといえる。

 ことしは、中国では「抗日戦争勝利60周年」にあたり、今回のような反日デモが日常化すれば、日中関係は、「政冷経冷」になる恐れがある。中国はこれを何としても避けたいはずだが、すでに一部で「抵制日貨(日本製品のボイコット)」が現実のものとなりつつあり、中国政府は慎重な対応を迫られている。日本としては、冷静に対応し、17日に北京で行う日中外相会談や、インドネシア・バンドンでのアジア・アフリカ首脳会議(22、23日)での小泉首相と胡錦濤主席との会談(予定)などを通じて、反日デモでこうむった被害と影響を外交ツールに使い、したたかな外交をみせてほしいところだ。



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