郵政民営化法案をめぐる攻防は、いよいよ国会に舞台を移すが、これに先立って小泉首相がみせた強固な意志表示は、反対派はもちろん、賛成派にも衝撃を与えた。旧郵政省出身の総務省幹部2人(総務審議官、郵政行政局長)をいきなり降格させる人事を、麻生太郎総務相にしぶしぶ飲ませたのだ。この2人は、かねてから自民党の民営化反対派と通じており、民営化に抵抗したというのが理由だった。
この人事の異例さは、直接の任命権者である総務相の頭越しに、しかも審議入りの直前に行うという点にあった。それだけに首相の郵政民営化の実現に賭けた不退転の決意を内外に示すことになった。しかしこの小泉流の強権発動は、いっぽうで自民党内に大きな反発を生み、反対派をかえって結束させることになりそうだ。実際、4月27日に総務会で法案取りまとめを強行し、閣議決定した経緯があり、反対派の拠点である「郵政事業懇話会」の幹部は、「もはや法案修正など問題でなくなった。こんな独裁的な政治手法を許していいのかという雰囲気だ。こうなったら民主党と組んででも廃案に追い込む」と意気込んでいる。
首相は、GW中の外遊先でも、記者団に対し、「民営化法案が廃案になったらどうなるかわからない」と、法案が否決されたら、これを不信任とみなし、衆院解散もあり得ることをにおわしていた。そこには支持率の高さを背景に国民の耳目を集めようとする小泉流のしたたかな計算がある。麻生総務相が最後まで抵抗しなかったのは、「ポスト小泉」を配慮して、ここは首相の内閣指揮権(人事は官房長官を筆頭にした人事検討会議を開き内閣の了承が必要)に従ったほうが得策と考えたからだといわれる。
小泉首相は17日、この人事発令を受けて、「過去の経緯とか意見が、政府案と違うところがあったから、代えたほうがいいんじゃないか。新体制で審議に臨んだ方がやりやすいんじゃないかな、と思って決めた」と、自らの指示であることを認めた。
法案の審議をめぐっては、与党が、定例日にこだわらず国会の審議時間を柔軟に設定できる特別委員会の設置を要請したのに対し、廃案を目指す民主党など野党は、郵政公社化を決めた中央省庁等改革基本法を改正しないまま審議入りするのはおかしい、総務常任委員会での審議が妥当だと主張し、早くも入り口の段階から対立している。最終的には多数決で特別委員会が設置される見込みだが、自民党内では党議拘束が生きているのかどうかの意見の相違に加えて、与野党の反対派同士が組めば数のうえでは廃案に追い込めるとの見方もあって、今後、郵政民営化法案の審議は波乱含みの攻防になりそうだ。
|
|