冷戦時代を彷彿させるようなラムズフェルド国防長官の発言は、2期目に入ったブッシュ政権が世界規模で進める米軍のトランスフォーメーション(変革・再編)や、最近のアジア外交と決して無縁ではない。米国にとっては、核兵器開発問題をかかえる北朝鮮を含めて、アジア太平洋の安全保障上、軍事大国(国防予算は米国、ロシアに次いで世界第3位)の道をひた走る中国が最大の脅威になることを恐れている。
それは、主催国シンガポールのリー・シェン首相が開幕演説で「中国に対する敵視や封じ込め戦略は奏効しない」と警告したのに反論してみせたことでも明らかだ。米国は、アジア各国の国防担当相や軍事専門家が集まる会議に中国が初参加した機会を利用して、あえて米国の懸念を強調し、中国を牽制した。北朝鮮をめぐる6カ国協議が1年にわたり開かれず、議長国である中国に対する不満もあった。
米国防総省は近く「中国の軍事力の年次報告書」を公表するが、このなかでは、(1)台湾対岸の南京軍区における短距離ミサイルの配備増強、(2)ロシアからの最新鋭迎撃戦闘機の追加導入、(3)攻撃型潜水艦の導入にみられる海軍力の増強――などが列挙されている。ラムズフェルド国防長官は、最近、「世界の通常脅威」との表現で、中国の軍事力を「テロの脅威」とは別に認識する必要性を強調しており、演説では「経済発展は軍事予算の伸びと見合ったペースで進んでいるのに、政治的自由についてはそうはなっていない」と中国の台湾政策を批判した。また、中国の軍備拡大はエネルギー確保のためでもあるとの見方も示した。
この会議に出席した大野防衛長官は、日米防衛首脳会談で、米国側から「中国の国防費は公表されている数字の二倍から三倍ある」と説明されたのを受けて、「中国の国防予算は透明性が欠けている」と米国に同調した。ちなみに、中国の2005年の国防費は、前年比で12.6%増の2447億元(約3兆2200億円)。1999年から2002年まで14年連続で前年実績費2ケタの伸びを記録、03年は9.6%増、04年は11.6%増だった。これに対し、中国側は、「国防費の増加分は軍人の生活条件の改善に充てている。中国の軍事的な脅威の誇張は、アジアの平和と安定にとって不利益になろう」と米国に強く反発した(7日の外務省会見)。
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