今回の報告書では、少子高齢化の進行にともない、共働き世帯が増加(30年前には全雇用者の90%近くだった正規雇用者が63%に減少)するなど、社会構造が変わるなか、税負担の不公平感が生じているとして、税額を算出するさいに収入から差し引く各種控除の廃止や縮小を提言した。批判が集中したのは、「個人所得課税に関する論点整理」で、所得の把握がしやすい、つまり税金が取りやすい給与所得者=サラリーマンに狙いを絞った点にあった。これが実現すれば、実質的な増税だ。
所得税(国税)について報告書は、概算で認めてきたサラリーマンの必要経費である「給与所得控除」を縮小し、実際にかかった経費を自ら確定申告することに改めるほか、サラリーマンの妻で専業主婦を対象にした「配偶者控除」や、教育費がかさむ16〜23歳未満の子どもを持つ世帯に対する「特定扶養控除」の廃止を求めている。また、個人住民税(地方税)では、生命保険料控除と損害保険料控除の「速やかな整理」と、退職金優遇税制の見直しを盛り込んだ。
第一生命経済研究所の試算(給与所得控除が3分の2に縮小、特定扶養控除と定率減税の廃止の場合)では、国内総生産(GDP)は実質で年率0.4〜0.6%押し下げられるほか、個人が自由に使える可処分所得は、上にあげた3つの増税を行うと、4兆1200億円分が減るとみられている。また、経済ジャーナリストの荻原博子さんによると(45歳、年収500万円=専業主婦の妻と高校生、中学生の4人家族で、給与所得控除が3分の1に縮小した場合)、定率減税廃止で、現在の所得税12万5200円が16万4600円に増える。さらに、各種控除が廃止され、所得控除が縮小されると、総課税額は46万8000円にはね上がるという(いずれも東京新聞より)。
こうした「増税」について、民主党の野田佳彦衆院議員(「次の内閣」の財務相)は、「公務員のリストラや歳出削減をやっていない。公的部門のお金にシロアリがたかっているのを放置し、働き蜂にもっと働いて税金を払えと言っているようなものだ」と批判(毎日新聞6月27日付)している。また、与党である自民、公明両党も、東京都議会選挙(7月3日投票)の真っ最中だけに「タイミングが悪すぎた」と野党側の増税批判に渋い顔だ。武部自民党幹事長は、27日の会見で「遺憾なこと。財務省に厳しく注意した。自民党がそんなことはさせない」と強調するなど、"火消し"に大わらわだった。
財務省にとって、当面の最優先課題は、「日本最大のリスク」と財政制度等審議会が指摘した財政赤字の解消にある。1991年度に26兆7000億円あった所得税収は、景気低迷の影響で05年度見通しでは14兆3000億円とほぼ半減した。いっぽう、国の借金である国債発行残高は538兆円(05年度末)と膨れ上がっている。すでに財政審は6月6日の報告書で、「将来の税負担増は消費税で賄うしかない」と明記した。今回の政府税調報告書と重ね合わせると、消費税引き上げか増税か、国民に選択を迫ろうという狙いが見える。
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