郵政民営化法案は、5月27日に審議入りして以来、計109時間25分の審議時間をかけて、7月4日、特別委員会で一部修正したうえ自民、公明の与党の賛成多数で可決、5日の本会議に上程された。自民党執行部は、造反が予想される自民党の反対派議員に対し、反対する者や欠席者は、党の役職につかせない、次の選挙で公認しない、など強烈な締め付けを行ったにもかかわらず、反対37人、欠席・棄権14人の計51人の造反者が出た。
採決結果が最悪を想定した票差だったことが冒頭の首相発言になった。今後、参院に審議の舞台が移るが、もともと与野党の議席差が接近(議長を除き35)しており、かりに自民党から18人以上の反対者が出たり、36人以上が欠席するような事態になると、法案は否決される。加えて、慣例で、国会の会期延長は1回しかできないことになっていて、すでに延長済みだ。その会期末もすでに8月13日と1カ月足らずしかなく、審議時間に余裕はない。このため、参院の野党は「小泉首相も郵政民営化法案も死に体同然だ。戦い方次第では否決して廃案にできる。小泉政権も打倒できる」(民主党首脳)と、がぜん張り切りだした。
衆院を通過した郵政民営化法案は6法案から成る。その骨子は、(1)日本郵政公社を07年4月から、日本郵政会社を持ち株会社(政府は3分の1超を保有)として、郵便事業会社、郵便局会社(窓口ネットワーク会社)、郵便貯金銀行、郵便保険会社に4分社化する、(2)10年後に、貯金、保険会社の株式を処分し、完全民営化に移行する、というものだ。しかし、小泉内閣は反対派に配慮して、金融2社の株式の買い戻しを可能にして、現在のように経営の一体化を維持できるようにしたり、全国一律のユニバーサルサービスを維持するために社会・地域貢献基金(2兆円)を創設するなど、修正をしたり、確認答弁で補ったりした。
しかし、そうした土壇場での修正にもかかわらず自民党の造反を防げなかった。大量の造反者が出たのは、12年前の93年6月、宮沢内閣不信任案の可決以来のことだ。「薄氷を踏む思いだったのは事実」(武部幹事長)、「参院審議に影響がないといえばうそになる」(片山参院幹事長)など、執行部は先行きに警戒感を強めている。これに対し、反対派の亀井元政調会長は「第2ラウンドの参院で完璧にノックアウトする」と意気軒高。郵政事業懇話会の綿貫会長(前衆院議長)も「こういう強引な党運営はよくない。自民党を立て直さないといけない」と廃案に向けて反対派の結束を強める決意だ。
参院での審議入りは、首相がサミットへ出席するため、10日以降になるが、参院の野党は、「徹底して逐条審議を行うなど、最大限の抵抗で廃案に追い込みたい」と、民主党は5日午後からさっそく勉強会を開くなど準備に取り組み始めた。いっぽう、自民党では、造反した計4人の副大臣、政務官を免職にしたが、党の分裂だけは、なんとしても避けたいところで、ほかの造反者の処分は、参院での採決後まで先送りする意向だ。過去には、政治改革法案が参院で否決されたため、両院協議会に持ち込まれたケース(94年)や、モーターボート競争法案のように、もう一度衆院に回付され、3分の2以上の賛成多数で再議決(51年)された例がある。
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